ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か? ( No.93 )
- 日時: 2011/06/08 23:23
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)
- 参照: 更新遅くなってすみません;
校舎を元に戻したレミシアは俺と共に場所を移すことにした。
今日は文化祭に向けて準備をする期間が設けられているため、午後からは文化祭の用意で忙しい。
言いだしっぺがその場にいないというのは少し悪い気がしないでもないが、あのままレミシアをスルーするわけにもいかなかった。
人気のない草むらでレミシアは立ち止まり、俺をいつもの笑顔で見る。久しぶりに見るような気がするのは、格好がゴスロリだからか? 最初会った時と同じ格好だからな……。
「嶋野様☆」
なんてことを考えていると、レミシアの方から相変わらずのロリ声で俺を呼びかけてきた。
「えっと……用件って何だよ」
少しだけ、この時先ほどの神庭との出来事を思い出してしまったことはこの際、勘弁して欲しい。——だって似たようなシュチュエーションなんだから仕方ないだろっ! 何か逆ギレみたいになってしまったな。
「実はですね……」
「あ、あぁ……」
俺は少し胸に密かな希望を抱きながらレミシアの顔を見つめる。見れば見るほどロリ顔だ。俺より年下なんじゃないかと思う。
だが、今はそんなことは関係ない。しっかりと向き合った途端、レミシアの口が開いた。
「魔王の目的が少し見えてきたんですよ〜☆」
「……へぇ」
「あれ〜? 何で冷めてるんですかー☆」
「いや、別に」
何だ、魔王のことか。そう思って俺は内心ガッカリした。もっとマシなものがよかったな……そうだな、例えば——
「嶋野様ぁ〜☆ 私を、た・べ・て☆ (注:香佑の妄想です)」
なーんてこととか、最高だな。やべぇやべぇ、鼻の下伸びるわ。伸びきるわコレ。
そんな風に俺が勝手に作り出したレミシア煩悩と戦っている時、レミシアは突然「あ!」と、声をあげた。
「すみません〜☆ 着替えますね☆」
「えぇっ!? 此処でぇっ!?」
俺の驚きの声(ほぼ歓喜の声)をスルーしてレミシアは着替えようとゴスロリの服に手をかける。そして——!
光に包まれ、一瞬にしてレミシアは普通のそこら一般の女の子が着るような服に変わった。
「男の夢が……」
「どうしましたか? 嶋野様☆」
「いや、なんでもない……」
テンションの上がり下がりが激しいと思ったのかは知らないが、落ち込む俺を見て不思議そうにレミシアは首を傾げた。
「まあ、いいです☆ それでですねー魔王の目的というのが——」
レミシアは笑顔を崩さずに口を開き、話そうとしたその時だった。
ドゴォンッ! という凄まじい爆音に似たような音が近場で、いや——すぐ傍で聞こえた。
煙が立ち込め、視界が遮られる中、俺はその音の正体がかろうじて見えた。
「お前は……!」
目を疑いそうになった。その正体は煙がだんだん晴れていくと共に露になってくる。
そして、その正体が見えてくる。何度確認しても、それは同じことだった。
「佐藤 友里……!?」
その音の正体はあの殺し屋の佐藤 友里だった。ぼんやりと、目線を地面に向けて立ち止まっている。少し顔は見えにくいが、明らかに佐藤の顔だった。
「知り合いですか〜?」
「あぁ。こいつは殺し屋の佐藤 友里っていう俺の同級生でもあるやつで——」
その時、俺がレミシアに説明をしている途中、いきなり佐藤が地面へと倒れた。どこか傷ついているのか? と思い、駆けつけようとしたがそれをレミシアに静止させられる。
「嶋野様☆ どこかあの子、様子がおかしいようですよ〜?」
レミシアの言葉通り、佐藤は何度か痙攣のような動作を起こしていた。それが4,5回続いた後、いきなり佐藤の体は浮き上がった。
よく見ると、表情は無表情で目が虚ろ。いつもの佐藤ではないことは明らかだった。
「異常事態発生。至急、緊急防衛モードに入る」
機械口調で佐藤は呟いた。あのおっとりとした性格の佐藤はどこにいったんだ?
俺は少々躊躇いながら佐藤の姿を見つめていた。レミシアはいつの間にか右手に剣を装備していたが。
「変革世界ログインします〜☆ 状態、100%ですー☆」
レミシアが呟いたその瞬間、世界が灰色に染まっていく。色をだんだんと失っていく光景が見れた。
この場所は知っている。この世界は、アンドロイドと名乗る奴に殺されかけて、そして——俺がユキノと出会った場所だ。
「救世主の魔力解放。リミッター解除」
またもや佐藤は呟く。意味は全く分からないが、何やら重苦しいプレッシャーのようなものが俺に突如襲いかかってきた。
これは一体何なんだと、俺は言葉にしてレミシアに伝えようとしたが、それより先にレミシアが口を開いた。
「魔力がもの凄いですねぇ〜☆」
お気楽な口調で言うが、結構ヤバいんじゃないのか? ——何か凄い波動みたいなのが出てるんですけど?
まるでどこぞのサイヤ人のように噴出音を出しながら、白い靄のようなものが辺りを囲む。何も分からない俺だが、これだけは分かるかな。
めちゃくちゃ、嫌な予感がする。
「魔力集結。攻撃魔法準備」
どんどん進行していくように見える魔法の詠唱的なものを呟いていく佐藤。その表情はまるで死人のような気がした。
「おいっ! 佐藤! 俺だ!」
俺がいくら叫んでも、佐藤はまるで返事をしない。本当別人じゃないのか? いや、別人であって欲しい。
そう願いながら名前を呼んでいるのだが、全く降下がないことに俺は半ばどうすればいいのか分からない状態だった。
そんな時、レミシアが瞬時に佐藤の元へと駆け出した。そのスピードは肉眼で捉えられるのがやっとのぐらい。
「レミシアっ!」
レミシアを何故か止めようと静止のために名前を叫んだが、これも聞こえないかのようにレミシアは佐藤の目の前まで行き、そして——右手に持っている綺麗な刃を持つ長剣で、佐藤の左肩から一気に斜めへと斬り落とした。
一瞬の出来事だったためか、俺は言葉を失った。同時に、佐藤の様子が気になる。
しかし、結果はレミシアが大きく弾かれて終わっていた。佐藤の周りに薄い膜のようなバリアが張られており、それが何なのかは分からないが、それがレミシアの攻撃を弾いたのか?
「本物ですか〜。厄介ですねー」
レミシアの表情は笑っていたが、目だけは全然笑ってなどいなかった。むしろ怒っているんじゃないかと思えるほどに怖い印象を与えていた。
何が本物なのか、とツッコミたかったが、どうやら佐藤はその暇すらも与えてくれないようだった。
「準備完了。マグマオーシャン——発動」
その途端、一瞬だけ佐藤の差し出した右手から絶大なプレッシャーが抜け落ちた気がした。だが、それは本当に一瞬だけで、上空からそのプレッシャーの塊が落ちてくる感じがした。
「リミッター解除です〜☆」
可愛らしい声が近くで聞こえたと思うと、俺の周りに何やら青く澄んだ光が覆っていた。
いつの間にか傍にいるレミシアがその結果意のような光を形成しているのだろう。なんだか心地いい感じがしたが、それも束の間だった。
上空には、ありえないものが落ちてきていた。一言で表すとすれば、それは——原始地球。いや、バカでかい太陽みたいに赤く燃え上がっている隕石か?
どちらにしても、そんな半端でないものが容赦なく俺とレミシアを飲み込んでいく事実は確かだった。
結界と衝突した時もの凄い地響きと頭の揺れが半端なかった。交通事故とかしたら、これぐらいの衝動は来るのだろうか?
俺はそれに抗うことも出来ずに、ゆっくりと視界がぼやけて、最後には真っ暗な闇に落ちていく。
「う……」
どれぐらい経ったのか定かではないが、気を失ってからそれほど時間の経過はしていないだろう。
状態を起こし、辺りを見回すとそこには——驚愕の光景が広がっていた。
「なんだよ、これ……!」
建物は崩れ去り、周りの灰色をした草むらは燃えて無くなって荒野と化していた。
残っているものといえば、いまだ無表情の佐藤の姿と、地面に手をついて少々呼吸を荒くしているレミシアの姿だった。
「私が任務遂行後でなく、全快の状態だったら……!」
表情は笑顔から少し苦笑した感じの表情に変わっていた。俺をかばって結界みたいなもので守ってくれたみたいで、そのおかげでレミシアの魔力は大分削られたようだった。
「嶋野様」
「は、はいっ!?」
いつもと違う声のトーンに少々戸惑い、声が多少裏返りながら返事をした。正直、すげぇ怖い。こんなレミシアを見るのは初めてのことだった。
「あの野郎……あ、いえ、あの子をやっちまいましょう☆」
言葉と声のテンションが合ってなさ過ぎる……! それにあの野郎とか言ったよね? 今絶対言ったよねぇ!?
「佐藤を倒すにしても、傷をつけるのは……」
「分かってますよー☆ 嶋野様のご友人なので、気絶ぐらいで済ませてあげましょう☆」
すげぇ上から目線というか、なんと言うか。とにかく、凄く怖いです。
今となってはせっかくの可愛い顔が恐ろしくギャップを感じてしまい、身震いまで起こさせる。それほど迫力があった。
「あの子が何故か纏っている厄介な魔力の正体は、救世主のですね〜☆」
「救世主? 何だそれ?」
また新しい言葉が出てきたので、俺はそれについて聞いてみるが——どうやら佐藤の方はそれを待ってはくれないようだった。
次の詠唱に向けて、早々と準備をしている様子だった。
「魔力集結……」
再び佐藤の右手に魔力が宿る。先ほどと同じようなプレッシャーの塊が俺に襲いかかってくる。
もう一度あの巨大な隕石の降る魔法でも出されたら——レミシアは耐え切れるだろうか?
「レミシアっ! どうする?」
「そうですねー☆ 私に考えがあります〜☆」
俺とレミシアが作戦会議のようなものをしている間に、佐藤は攻撃魔法を発動する手前の方まで詠唱を進行させていた。早く実行しないと、佐藤は待ってくれなさそうだ。俺とレミシアは素早く左右に分かれる。
「よし……! 作戦実行っ!」
俺の掛け声でレミシアは瞬時の速さで佐藤の目の前まで到達し、そして——魔力を込めた渾身の斬撃が佐藤を襲った。
ガキィッ! と、再び最初の方と同じような音が四散し、レミシアは大きく弾き返されそうになるが、連続して斬りかかっている。
「……詠唱一時停止。至急、侵害者除去せよ」
佐藤が呟きながらレミシアの方へと顔を向けた。
今だ。この時しか、チャンスはない。俺は密かに佐藤へと近づき、右手を後ろに引く。
レミシアはその間佐藤と応戦している。佐藤の攻撃は何の詠唱もなしに、激しい衝撃を放つ何かでレミシアへと当てようとしていた。
それをレミシアは剣で受け止めたり、流したりと、様々な動きを見せて避けつつ、攻撃を繰り返していた。
「もう少し耐えてくれよ……!」
俺は右手に力を込める。今の俺の格好は槍でも投げる瞬間のような格好をしている。右手を後ろにして構えているような形。まさに、槍を投げる時だろう。
俺がやろうとしていること。それは——朝に見た、あのグングニルという技だった。
右手を後ろに引っ張り、肩ごと前に放つ。
簡単に書いてはあったが、意外と難しい。なかなかエルデンテが右手に集まらない。
「クッソッ! 集まれこの野郎っ!」
大声を出して力を出す。すると、バリバリっと電撃のような音が右手の方から聞こえたと思うと、エルデンテが集まり始めていた。
「これならいける……!」
感覚でもう放てると感じた俺は、力を込めて前へとそれを放とうとする。——が、かなり重く、前に投げ出すことすら難しい。
「いけぇぇぇぇっ!!」
このさい気合で何とかしてしまえ! やけくそながらもそう思った俺は、渾身の叫び声をあげて投げ出した。
雷撃はいつの間にか、槍状を保ちながら真っ直ぐ放たれていく。狙いは勿論、佐藤に目掛けて。
レミシアと応戦していた佐藤は、ゆっくりと放った槍状のものを見ようとするが、向きかえるまでに俺の放った槍状のものが佐藤の腹ぐらいを貫通せんとした。
手前でバチバチと音をたて、遂には佐藤に覆われていた魔力が破壊される。
そこにすかさずレミシアは生身の佐藤に目掛けててを差し伸ばし——魔力の衝撃のようなものを放った。
ドクンッ! と、妙に生々しい音が聞こえたと思うと、佐藤は痙攣した後にその場へと倒れた。
「な、なんとか上手くいったな……」
俺はため息を吐いて佐藤を起こそうとしたその時だった。
「友里ーっ!」
誰かの声が聞こえた。それは、近くの崖の上からだった。
いつの間にか現実の世界へと戻っていたようで、色彩もちゃんとある。つまり現実の世界で誰かが佐藤を呼んでいる?
見上げると、そこにいたのは——
「さ、佐藤っ!?」
傍で倒れているはずの佐藤 友里と同じ顔をした女の子がそこにいた。
そこには確かに佐藤がいた。外見も、俺の知っている佐藤だし、声の感じも、雰囲気も何もかもが同じ感じだった。
でも、目の前で倒れているこの佐藤も、佐藤 友里本人なような気がする。
矛盾が矛盾しているような感覚に陥るが、とにかく、俺は崖の上にいる佐藤の姿を見て言った。
「貴方、どこの佐藤さんですか?」
失礼だとは思いながらも、聞かずにはいられない俺なのであったとさ。
説明その6っ:貴方、どこの佐藤さんですか?(完)