ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?第6話完結っ ( No.94 )
- 日時: 2011/06/19 21:27
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)
「連絡は繋がったか!?」
忙しく機械音や騒音が聞こえる中、クロナギの声が室内に響いた。
コンピューターらしきものが何台も置かれたその室内には、妙な緊迫感が所狭しとあった。
「はいっ! 現在、騎士団の団長であるシルヴィア様と連絡が繋がっております!」
「よしっ! 私に回せ!」
クロナギは連絡の繋がっている電話機のようなものを手に取り、耳に当てた。
「勇者、クロナギか?」
すると、その電話機から凛とした声が聞こえてくる。この騒音が飛び交う中、その声はハッキリと聞こえた。
「あぁ、私だ。久しぶりだな、騎士団長シルヴィア」
「……現在、歌姫様を連れて下りようとしている」
歌姫、というキーワードを聞いてクロナギは表情を険しく変えた。
「もうそっちに魔王軍は侵略しているのか!?」
「いや、まだだ。しかし、怪しい動きが見られる。既に我が王国は信用できないだろう」
騎士団の住む世界は、王国から成り立っている。一つの王国がそれぞれ王族ごとに分かれ、領土を持っている形。
その中、一際大きな王国が不審な動きを見せた。それに続くようにして他の王国もまた、不審に動くようになった。
それを決定付けることが、歌姫の部屋に弓矢が放たれたこと。明らかに何者かが故意でしていることだと感じ取れた。
「そうか……では、下りるのならば勇者レミシアと連絡を取ってくれ。現世界に今いるはずだ」
「分かった」
一言、言い残した言葉を聞くと同時に連絡が途絶えた。クロナギはゆっくりと電話機を置き、そして告げる。
「こうなったら戦争になるかもしれん! 十分準備を怠るなっ!」
他の勇者達は一斉に頷き、大きく返事をしたのだった。
カッチ、コッチと時計の音が聞こえる。いや、正確に言うとそれだけしか聞こえない。
それだけ無音の境地であるからして、そしてこの状況。
「……」
誰も一言も話さないこの状況はどういうことなのか説明してもらいたい。ていうより、久々に全員集合したのにこの姑の睨み合いみたいなことになっている原因は——俺の目の前に座っている一人の少女と、もう一人の目を閉じて寝ているかのように倒れている同じ顔をした少女二人のせいだろう。
同じように二人は俯き加減に黙っている。それがもう数十分は続いているのだから、そろそろ足の痺れがきますよ?
ちなみに言うと、現在この俺の家のリビングたるところにいるのは俺と、ユキノ、結鶴、葵、燐、レミシア、そして——佐藤少女二人。
一人、レミシアだけが笑顔でこの場に居座っているという状況。他は皆居辛そうな、何ともいえない雰囲気を醸し出している。
「あの、さぁ……」
ここで口を開いたのはユキノだった。ユキノは気まずそうに頭をポリポリと掻きながら、何とか声を発するようにして言う。
「と、とにかく、何か食べない? ……お腹、減ったんだけど」
「そ、それもそうだな……。じ、じゃあ何か作るわ」
俺はユキノに便上して、逃げるようにキッチンへと歩いていった。結鶴は結鶴で佐藤を見つつ、怖い表情で葵と燐を見てるし、同じようにして燐も結鶴を睨んでるし。対して葵は素知らぬ顔でマシュマロを無音で食べている。
ユキノは気まずすぎたのか、俺の元へと駆けて来た。手伝おうというのか。まあ、懸命な判断だとは思うがな。
何でこんな全員集合! みたいなことになったのか。少し前にさかのぼると——
「貴方、どこの佐藤さんですか?」
何かノリでグングニルを発動させることが出来た俺はあの後、崖の上に突如として現れた佐藤に目掛けて言った言葉。
この一言で、その崖の上にいる佐藤が反応したところから始まる。
「ふぇっ!」
と、可愛らしい声を出して怯えるようにしてしゃがみこむ崖の上の佐藤。
そして、そんな佐藤に後から続くようにしてユキノ、葵、燐が来た。ていうか、俺の家の留守番は?
「香佑っ!? 何してんだよっ!」
ユキノから怒った感じの口調で怒鳴られたけど、俺にとっちゃ、何がなんだかわからない。倒れている佐藤が一体何なのかも分からないし、それに崖の上の佐藤は一体どこの佐藤なんだ。
崖の上の佐藤が、本物の友里? それとも、この倒れているほうが?
同じ顔してるから全然分かんねぇ。ていうか、双子?
「どうなってんだ……?」
どうすればいいかも分からず、ただこの状況に俺は困っていると
「待てぇっ!」
どこからともなく声が聞こえた。それは崖の上にいる一同から発された声ではなく、もっと別の——そうそう、俺の後ろとか。
その声の正体は結鶴だった。相当走ったのか、少しだけ息切れをしているように見えたが、その素振りは一瞬で消え去る。
「香佑!? どうしておぬしがここにおるのだ!」
「いやいや……逆になんで結鶴もここに——」
ますます混乱してくる中、結鶴は「あぁっ!!」と声をあげて俺の傍で倒れている佐藤の元へと近づいていく。
「おいっ! 大丈夫か! ダブルオーっ!」
え、何言ってるんすか、結鶴さん?
ダブルオーっ! って叫ぶ人、初めて見た……。ていうか、そこはセブンも付け足そうぜ。ボンド来い。ボンド。
「香佑っ! レミシア! おぬしらがまさか……!」
「ま、待てって! 落ち着け!」
刀を抜こうとし、殺気を露にする結鶴の姿に慌てて俺は弁解をする。
だが、その俺の言葉を聞きそうにもないほど強く俺を睨んでいる。——ちょ、本気でやばくないっすか?
「あはー☆ 少し誤解してますよ〜☆ 故意でこの子を気絶させたわけじゃありません☆」
「故意じゃない……? ということは、ダブルオーから攻撃を仕掛けたというのか?」
「ダブルオーちゃんって言うんですか? 面白可愛い名前ですね〜☆」
少しばかり話しが噛み合っていないような気がしないでもないが、まあ、大体のことは伝わっただろう。結鶴の表情が次第に緩んでいくのが分かる。
「では、この倒れている方は佐藤 友里で——ダブルオーはあの崖の上にいる佐藤か」
結鶴が崖の上に目を配ると、そこにいた佐藤は俯き加減と涙ぐんでいる表情で結鶴を見つめていた。
……一体どういうことだ? ていうか、やっぱり倒れてるのは佐藤 友里本人? それじゃあ、あの崖の上にいる佐藤は誰だ?
ダブルオーとかなんとか言ってたけど、ここまで来ればネタとかじゃない気がしてきた。
「だー! 分かった! じゃあ俺の家で話し合おう!」
……と、俺が言い出したことからこのような事態に。全く、後悔すべきなのかすべきでないのかいまいちよく分からないな。
そんな回想をしつつ、俺はじゃがいもを包丁で切っていく。隣でユキノがダイダロスで——って待てぇぇっ!!
「バカかお前は!! 何でそんなバカでかい大剣でニンジンを切ろうとしてんだ!」
「へ? ……あぁ、ボーっとしてた」
「普通気付くだろ……」
ため息を漏らし、後ろを振り返ってみると——未だ何も話していない一同の姿。どころか、所々ピリピリしたような空気が……。
この空気のおかげで、ユキノも変な行動をしたのかもしれない。動揺しているみたいだな。
「……拙者はまだ、全て許したわけではない」
「何も、許してくれなどと頼んだわけではないけどな」
「何……!?」
「何だ……!?」
結鶴と燐の口論がキッチンにまで聞こえてくるのが何とも痛々しい。というより、見てられない感じがする。
大丈夫なのか? あの二人。というより、俺がこれ、止めるべきなのか?
「二人共、やめて」
「姫様!?」
まさかの葵が二人を制止させた。ただ一言呟いただけでも、燐は葵には敵わない。
結鶴は多少驚いた顔をして葵を見つめる。正直、結鶴も葵と燐は悪くないと気付いてる筈なんだけどなぁ……。どうもこの二人は似てて、どちらも頑固だから扱いがなかなか難しい。
「とりあえずですね〜☆ 皆さんにお知らせしたいことがあるんですよ〜☆」
レミシアが手をポンッと軽く叩いて、笑顔で俺たち全員に聞こえるようにして言った。ていうか、それを早く言えよな。
「どうしたんだ?」
じゃがいもをなお、切りながら俺が答えた。するとレミシアは人差し指を立てて得意そうに言ったんだ。
「何者かがですね〜☆ ——ここに向かって敵意を向けながら飛んできてるんですよ〜☆」
……ふむ。なるほど?
「あの、それは結構ヤバいんじゃ?」
「はい☆ 結構ヤバいかもですね〜☆」
「じゃあ、戦闘の準備とか、なんなりとしないとマズいんじゃ?」
「はい☆ マズいですね〜☆」
……ダメだ、この人。
「「何でもっと早く言わなかったんだよぉぉぉぉっ!!」」
ゴシャァッ! という瓦礫か何かが潰れた音が聞こえ、その瞬間、一気に何者かが侵入してきたのと同時にとてつもない数の火の玉のようなものが俺たちのいるこの——俺のマイホーム目掛けて飛んできた。
全く。災難すぎて涙もでねぇよ。