ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?第7話スタートっ ( No.95 )
- 日時: 2011/06/12 22:29
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)
季節は春。まだ桜が咲いている頃のお話。
GWに入り、暇が出来たということで花見をしようということになった。とはいっても、俺から誘ったわけじゃない。
「花見しようぜっ!」
「……またお前か、スケベ大魔王」
スケベ大魔王こと、槻児からの提案だった。アホだなーと思いつつも生憎、暇な俺は槻児の言葉を寝そべりながら聞いていた。
「大魔王じゃなくて、閻魔って呼んでくれよ!」
どう違うんだ。もうここらへんからアホが流出してるぞ、スケベ閻魔大王、槻児。
「花見行こう! 可愛い女の子とか連れちゃってさぁっ!」
バンッ! と、俺の机を叩いた槻児は、さも興奮気味に鼻息を荒くしながら言う。
いや、そんな迫られても。花見なんて遠目で見てれば十分だと考える俺にとってはさほど嬉しいイベントでもない。
「よし! じゃあ今週の〜……木曜日な! 桜見るから、木繋がりで木曜日にしよう!」
「ちょ、待てっ!」
「じゃあな! 俺、今から人数集めないといけないから!」
まだ集めていなかったのか。というより、今週の木曜日というと——GWの休みは休みだが、何だろうか……この嫌な予感は。
無視しとけばいいかなぁ、と思いながらも俺はその日を無事過ごした。
——みんなで花見に行きましょう
そして、水曜日。
行けないことを伝えるためにずっと槻児に電話をかけていたのだが、全然音信不通でかからなかった。
しかし、今日いきなり槻児の奴からかかってきた。
「さぁっ! 遂に明日だな!」
「遂に明日じゃねぇよ……お前、何で電話でなかったんだ」
「いやぁ、人数集めで忙しくてな! あっ! お前はどれぐらい人集めた? いや、どれぐらい可愛い子ちゃんを集めた? ぐふふっ!」
気持ち悪いな……。ぐふふって何だ。それに俺も人数集めをするなんてこと、一切耳にしていない。音信不通にしていたクセして都合の良い奴め……。
「いや、俺明日いけねぇから」
「はぁっ!? Why!? 冗談はたいがいにするんだぜベイビーッ!?」
いきなり口調が変わった槻児はなにやら必死すぎて怖い。ていうか、そこまで豹変しなくても——いや、元からこんな感じか。
「冗談でも何でもなく、マジだっての。お前が音信不通にしているのが悪いんだろうが」
「何でダメなんだよぉっ! 俺とお前の、仲じゃねぇかぁっ!」
「いや、誰もお前と——」
「頼むよぉっ! 来てくれよぉっ! 香佑が最高に可愛い女の子引き連れてくるって言っちゃったんだぜぇっ!?」
「はぁっ!? バカかお前は! なおさら行かねぇよっ!」
「いや、嘘ですっ! そんなこと言ってません! だからお願いします!」
哀れな……。多分今頃、槻児は電話に目掛けて土下座をしていることだろう。少し声が遠く聞こえるのはそのためだと簡単に分かる。
何てプライドのない男? ——そんなこと、百も承知だ。槻児はここらへんもバカ野郎なんだ。
「あぁ、もう……うぜぇ」
「え? 来てくれるんすかっ!?」
「何て都合のいい耳してんだお前はっ! ……はぁ、分かったよ。行く行く」
「おぉっ! さすが心の友よっ!」
「ジャイアンかお前は……。あ、でも可愛い子ちゃんは無理だからな?」
「えぇっ!!」
「……都合いいね、お前」
ため息が漏れる。いや、こいつといるだけでため息が出るのは仕方ないことなのかもしれないが。
そんなこんなで、俺は明日、花見に行く約束をしてしまった。
電話機をおいて、また一つため息を漏らした数秒後、いきなり俺の両肩に凄まじい痛みが走った。
そのあまりの痛みによって倒れこむ俺。その原因は恐らく——
「ははは! さっきプロレスでやってたモンゴリアンチョップだーっ!」
「ユキノ……てめぇ……」
仁王立ちで俺の真後ろに立つユキノはなにやら怖いほどニヤついていた。——ダメだ、すげぇ嫌な予感がする。
「さっき、何の話してた?」
「はぁ? ……あぁ、ちょっと明日同級生と出かけ——」
「どこに?」
質問が速い速い。これは、嫌な予感が的中しそうですよ?
「いや……公園に」
「モンゴリアンチョップッ!」
「いてぇっ!!」
細い腕からは想像できないほどの威力を持つ両腕が俺の腰を仕留めた。普通はそこにチョップやらないんすけどね。
「嘘を言うからだ、ボーイ」
誰の真似だそれは。ふっ、と鼻で笑うユキノの顔があまりに不気味で仕方がないほどだ。
「さぁ、言え……!」
これは言わなければ俺の命が危ないと思った。仕方なく、俺は花見の件を話してしまったのだった。
これほどまでに雨が降って欲しいと願ったことはなかった。
でも、現実は残酷であるからして快晴となってしまった。逆に願わない方がよかったのかもしれない。
会場たる場所はどうせ人がいっぱいだろうと思いつつも準備をする。朝早くに出れば、きっと俺一人だけで行けるだろう。
家で未だ睡眠中のユキノ、結鶴、葵、燐が起きないように気をつけて行かなければならない。
こっそりと俺は玄関を飛び出し、朝早くに出かけたのだった。
会場たる場所はさほど遠くはなかった。とはいっても、電車で30分程度はかかる場所なのだが。
自転車で行く方が近道があって速かったりもするが、荷物があるために今回は電車で行くことにした。
ガタゴトと、GWのためか朝早くから親子連れやら旅行に行くための荷物を持った人々が同様に揺られていた。
俺は眠気でウトウトしつつも、放送の声をしっかりと耳にしながら下りる駅を待っていた。
「あれ? 香佑?」
そんな時、どこかで聞いたことのあるような声が俺の耳に届いた。それは放送でもなんでもなく、生の声。
眠気でウトウトしていた目が覚めると、そこにいたのは——
「か、神庭?」
「あ、やっぱり香佑じゃん! どうしたの? 一人にしては多いに荷物じゃない?」
可愛い私服姿の神庭が目の前にいた。荷物は俺に比べたら少ないが、女の子にしては少し大きめのバッグを持っていた。
「そういう神庭こそ、荷物大きくないか?」
「あぁ、これは花見のためだよー。何か槻児に呼ばれちゃって……」
「え、槻児に?」
「あれ? 香佑も?」
神庭を呼んでいたとは聞いていなかったな……。まぁ、別に構わないんだけども。
俺はそんなこんなで、神庭と一緒に電車に揺られることになった。他愛も話を幾つかしながらだが。
そんな中、またしても聞いたことのある声が俺の耳に届くのだった。
「ん……? もしかして、嶋野と神庭?」
その声の持ち主は、俺のクラスの副委員長たる中里だった。中里は相変わらずの面倒臭そうな顔と少しの笑顔で俺たちに近づいてきた。
「もしかして……中里もか?」
「え、二人も槻児に?」
「うん。中里君もかー」
なんてことになって、中里も俺たちと一緒に電車に揺られることとなった。
それからまたまもなくのことだが、同じように声をかけられる。
「あーっ! 中里君に嶋野君に湊ちゃん!」
この声も聴いた事あるなぁ……。何て思いながら目を配ると、そこにはやはり知っている顔があった。
「柴崎? お前もまさか……」
「三人も花見? 何か奇遇だねー」
まあ、同じ場所に召集されているわけだから、当然といっても当然なのだが……時間帯が時間帯だから驚いているわけだ。
「何で皆こんな朝早くに?」
「んー……なんとなく?」
皆なんとなくこの時間帯に来ようと思ったらしい。俺はなんとなくではなく、必然的になのだけども。
そうしている間に、目的地到着を示す放送が流れる。いつも大変ですね、だなんてこの時思いながらも俺たちは外に出た。
「わー! 凄く綺麗だねー!」
柴崎がテンション上げ気味に言う。といってもいっつもテンション高いかな、柴崎は。
満開の桜が所狭しと広がっていた。辺りは桃色一色に染められている。さすがこの付近では有名な花見スポットだ。遠くからではあまりよく分からないが、どうやら大部分が場所取りを完了しているようだった。
「でも、こんだけ広かったら迷わないかなー?」
神庭が漏らした一言は確かに一理ある。結構広く、駅からこうして見えるわけなので一見迷いそうな感じが拭いきれない。
そうして駅から桜を見ていると「おーいっ!」と、どこからともなく声が聞こえた。
「こっちだーっ!」
すぐ近くに、それはそれは満面の笑顔で俺たちを迎えに来たと思われる槻児の姿があった。