ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 英雄の取り扱い説明書〜美少女ですが、何か?〜参照900突破っ ( No.99 )
- 日時: 2011/07/27 21:14
- 名前: きの子犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: hF19FRKd)
もの凄い音が俺の家の中へと散乱し、何が何だか分からない状態の中、俺は半分気絶状態からボヤけた頭を復活させて起き上がる。
やけに静かな室内の様子に、俺は少々戸惑いながらも呟く。
「一体なんだってんだ……?」
俺はゆっくりと辺りを見ると、そこには——誰もいなかった。ユキノや結鶴、レミシアに葵や燐や佐藤なんかも皆いなくなっていた。
他に変わったことと言えば、煙が妙に立ち込めているということと、さほど室内が荒らされた様子はない代わりに壁が左右粉砕されていた。ドアから礼儀正しく野郎がここに来たというわけでもなさそうだった。
「どこに消えやがった……?」
頭を掻いて、冷静に考えようと無事なテーブルの椅子に腰掛けて考えてみる。
まず何者かが此処に侵入してきたことは間違いないだろう。そして、そいつらの目的は——佐藤か?
だとしても、佐藤のみならず他の連中も姿を消している。あれだけ人数がいたのを、一瞬で?
もしかすると、俺は結構長い間気絶していたのかもしれない。すぐ目が覚めたつもりでも、本当は結構時間経ったんじゃ?
だとすると、その間にユキノたちは自力でどこかに? それとも敵にやられてどこに連れ去られたのか?
「……分からん」
考えれば考えるほどため息が漏れそうになり、憂鬱になる。とにかく、俺が今すべきことは——ユキノたちの行方を捜すことだろう。
それしかない。ていうか、一体何が起こったのかも分からない。犯人を即刻見つけ出して、壁の修理代を請求しなければならないこともあるのだからこれは必死に頑張るとしよう。
すぐに支度を済ませ、俺は勢いよくドアから外に出た。何らかの敵の痕跡がないか確かめたほうがいいのかもしれないとは思ったが、あれだけ木っ端微塵に壁を破壊しておいていちいち痕跡を残さないだろうと仮定してみた。——実のところは探す自体が面倒臭いだけなんだけども。
「何の検討もつかねぇけど……」
肩から掛ける愛用のバッグの中に英雄の取扱説明書と財布や必要なものをそれぞれ入れており、それを持ちながら俺はとりあえず走りこんだ。
何とも不思議なのは俺の家の壁が吹っ飛ばされてて周りの人達が駆けつけてくれないことだ。別に嫌われてもないと、思うんだが……。
とにかく目の前の道をひたすら走る。それが長々と続いた後に俺はようやくあるミステリーに辿り着いた。
「これ……俺、同じところ走ってねぇか?」
走っても走っても先ほど走ったはずの場所に辿り着く。これは一体何の現象? ポルターガイスト? いや、あれは幽霊か。
幻なのか夢なのかは分からないが、これだけ走って疲れてるのだからそろそろ解放して欲しい。
俺はゆっくりと膝に両手をついてため息を吐こうとしたその時だった。
「きゃああああ!!」
「うん……?」
それは上空から聞こえた声だった。女の子の叫び声に間違いはない。俺は訝しげに上空を見上げた。
「お、落ちる〜ッ!! 誰か助けてぇぇっ!!」
「んな……ッ!」
俺の真上から——何とお姫様のような格好をした女の子が降って来るではないですか。これ何のゲーム仕様だ? ていうか、この女の子スカートだから風ではだけて白い綺麗な足と、そして——!
「何見てんのよっ! この変態がぁっ!!」
「ぶふっ!!」
思い切りよく、落ちてきた女の子の足が俺の顔面に直撃し、俺はぶっ倒れて女の子は無事俺を踏み台のように、クッションのようにして助かった。
そのまま地面へと倒れた俺は後頭部を思い切りよく打つハメに。多分死んだな、とか思っていたが案外痛くないもんだった。
「ったく……! 気をつけなさいよねっ!」
ふんっ、とそっぽ向く女の子は何ていうか、凄く誰かさんに似ている気がした。
「あのなぁ……気をつけろったって、俺は別に何もしてねぇ」
「したじゃんっ! スカートの中覗こうとしたじゃん! この私に対してそんな変態行動見せたのはアンタぐらいよっ! ド変態ッ!」
すげぇボロカスに言われる。これもまた、誰かさんに似ている。こうやって言いながらもその女の子は腕を組んで俺を睨んでいる。
あまりに似すぎて俺は苦笑してしまうが——この女の子、外見の可愛さもそうだが、ユキノに似ている。
ユキノに髪を伸ばして、上品さを少し兼ね備えたりしたバージョンな気がする。
「何笑ってんのっ! 気持ち悪ッ!」
「いや、お前が俺の知り合いにあまりに似ててな」
「アンタ何か見たのは初めてよっ! ……はっ! もしかして私のファンか何か? え、ストーカーとかしてた噂のっ!? アンタがそうだったのねっ!」
……うるせぇ。ユキノ以上にうるさい感じがした。銃で言うと、一気に飛び出すショットガンのような感じ。後から続いて文句を垂れ込んでいくユキノはマシンガンのような感じか。——まあ、どうでもいいことなんだけどな。
この迷路みたいな不思議な世界の中でまさか人と会えるとは思わなかった。とりあえず、話を聞いてみることにした。
「なぁ、お前は——」
ゴンッ! という重たい音が俺の後方から聞こえた。目の前にいる偉そうなユキノ似の女の子は、俺の後方を見て呆然と固まっていた。
ゆっくりと、出来るだけ現実逃避したいなぁ、という気持ちで俺は後ろを振り向いた。
「モスバーガァーッ!!」
「……牛? 猪?」
俺の後ろにいたものは、顔が猪の顔で、色的に牛と耳も牛なバカでかい生物だった。
いや、これモンモンか? このタイミングで? 相変わらずのウルウルした目をしてやがる。——鳴き声がモスバーガーのモンモンか。また今度ユキノに聞いてみよう。
「離れろッ!!」
「モォォスッ!!」
地響きが起こりそうなほど大きな声をあげた後、その牛と猪のモンモンは自身の巨腕を俺たちに振り落とさんとした。
そんな簡単にペシャンコになっては堪らないな。俺はすぐさま女の子の手を取って走り出し、勢いよく転がって避ける。
すぐ後ろの方にはゴシャッ! という音と共にコンクリートな地面が何重にも割れ、裂けていた。
「いったいわねっ! 何すんのよっ!!」
「助けたんじゃねぇか。お礼ぐらい言って欲しいもんだ——ッ! また来るぞっ!」
少しの安堵の時間も束の間、再び上空より巨腕が振り落とされんとする。横へと転がって避けようとするが、肝心の女の子はその巨腕を見つめたまま微動だにしない。
「何してんだよ……ッ!」
俺は咄嗟に女の子を横へと突き飛ばした。——が、俺は逃げ切れずにそのまま巨腕に押し潰される。
ゴキッ、ベキッという音が全身に響く。何度も骨の折れる音が俺の脳内を掻き乱す。
何が起こってるんだか分からない真っ白な世界から約数秒。視界は元に戻った。
巨腕が俺から離れていく。もの凄く暑苦しかったんだ、丁度いい。
「この野郎ッ!」
俺は右肩に力を込めて構える。そして一気に前へと突き出した。勿論、狙いは牛と猪のモンモン。
電撃のような槍状のものがその大きな体を貫かんと放たれていく。そのままその槍は大きな体に突き刺さり、電撃が全身を包んでいくのを見届けた。
俺自身も動かないと、と思う前に俺は巨腕に押し潰されたことを思い出す。しかし、何故か体が自由に動くし、全然痛みも感じない。
さっきの骨が砕かれ、折れる音とか、血は圧迫して噴出しそうになる感じが全く解消されていた。
「どうなってんだ……?」
立ち上がり、自分の体を見つめて呟く。
「まだっ! 別のが来るっ!」
「ッ!?」
先ほどの女の子の声に合わせて俺はモンモンの方へと向き変えると、既にボディーブローのようにして俺の横腹を巨腕が捉えていた。
ボキボキボキッ! と、生々しい音が俺の耳に残る。これは俺、死んだだろ。そう思った突如、勢いよく吹っ飛ばされた。
どこぞの建物へと激突し、まるでアニメのように衝突の影響によって建物がバキバキと音を立てて衝撃を与えたようにへこんだ。
「変態ッ!」
女の子が心配そうな顔で俺を見つめながら叫んだ。
おいおい……俺を心配してくれているのはとても有難いんだが、変態って呼び名はねぇだろう?
「バカ野郎……俺は、嶋野 香佑。そんじょそこらの——ただの英雄だ、バカ娘」
不思議と痛みがなかった。「モォォスバァァガァァッ!(モスバーガー)」と叫び続けているモンモンに目掛けて駆けて行けるぐらいに。
自分でも驚くほどの速さで駆けながら、両腕がちゃんと動くかどうかグーパーを繰り返す。……よし、全然余裕だ。
モンモンのすぐ近くまで来たところで、俺は大きく踏み出して右手をグーに構えた。
「油断したよ、アホ牛」
力を込めて、思い切り踏み出して——その大きな体に殴りつけた。バチバチと電撃が篭ったその腕で。
バゴンッ! という鈍い音が鳴る。もの凄くへこんでいるこの大きな体に再びもう片方の腕も叩きつけた。
「2……3、4ッ!」
バゴンッ! バゴンッ! と、連続してもう二発続けて打ち込む。もの凄い鳴き声を出すモンモンだが——そんなの知ったこっちゃねぇ。
「5ッ! 6ッ! 7、8、9、10ッ!」
バゴンッ! という音が続けさまに聞こえる。何故だかどんどん拳の速さが速くなっていくような気がした。既に胸の辺りに風穴のあるモンモンはいつしか声をあげることすらもしようとしなかった。
「オラオラオラオラオラオラァァッ!!」
どんどん拳の殴打を続けていき、そして——
「とどめぇっ!!」
と、最後の一発を喰らわせようと溜め込んだ時には既にモンモンの体から青い光と共に消えかけていた。
よって、最後の渾身の一撃は空振り。何ともダサい終わり方だったが、なかなか爽快感が後から込み上げてきた。
息切れが結構ひどかったが、まだまだ拳の殴打は打てるぐらいに元気がある。
自分の手を見つめながら何だか自分自身に起こる異変に少し異常さを感じずにはいられなかった。
「おいっ!」
後ろの方から女の子の声が聞こえた。俺が振り向くと、何故か少し得意気な顔をして立っていた。
「あぁ、無事だったか」
「当たり前だっ! というより、結構や、やるじゃんか!」
女の子はその後、少し顔を赤らめる。ヒョイヒョイと表情が入れ替わっていく様子がなんとも面白い。
「ありがとよ」
俺は一応お礼を言ってからその場に座り込んだ。
「どうした?」
「ちょい休憩だ。お前に聞きたいこともある」
俺はそう言って女の子の顔を見つめると、女の子は俺の目の前に立ち——いきなり俺の腹を蹴飛ばしてきやがった。
女の子の表情は何故だか怒っている表情で、腕を組んで仁王立ちしていた。格好が姫様みたいにワンピース姿なのに、その顔は似合わない。
「お前っ! いきなり何しやがるっ!」
「お前じゃないっ! 私はアリサ。アリサ・ド・フォートレイフォードだっ!」
えらく長い名前だな……って、そんなことより日本人じゃない? こんなに日本語流暢なのに?
「お前、何者だよ」
「お前じゃ——」
「あーはいはい。アリサは何者でしょーか」
よく言ってくれた、という感じに胸を張って仁王立ちをするアリサ。
「よく言ってくれたっ!」
言っちゃったし。
「私は姫。レヴィーナス大陸の姫よっ! んでもって、国民のアイドル的存在っ! 完璧でしょ? ひれ伏しなさい!」
……まーた面倒臭いことになってきたな。レヴィーナス大陸って何だ。こうなったら、考えられることは一つしかない。
「アリサは……この世界の人間じゃなく、そのレヴィーナス大陸とやらがある世界から来たのか?」
「当たり前じゃないっ! ていうか、此処どこよっ! 逃げろーだなんて爺から言われて来てみれば……わけわかんないわっ!」
「此処はー……えっと、現実世界? だったかな。多分そんな呼び方だったと思うが——」
「はぁッ!? 現界ですってぇッ!?」
アリサの大きな声が俺とアリサしかいないこの不吉な空間の中に木霊したのであった。