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- Chapter1 【母親】 Episode7 ( No.10 )
- 日時: 2011/02/19 00:30
- 名前: メルー ◆f2oDWArF9w (ID: hH8V8uWJ)
次の日の朝。
ニュースと新聞で孝三の死は知らされた。
どちらも間違って線路の上に落ちた事故死という事で片付けている。
孝太は朝食を食べながら見ていたニュース番組で知った。
ニュース番組ではそう言っているが孝太は分かっている。
父さんは事故死なんかじゃない。
あの何でも屋さんが本当に殺してくれたんだ。
だけど、その何でも屋さんに頼んだのは他でもない僕。
つまりは僕が殺したようなもの。自分の父さんを。
孝太の心中は何だかスッキリしない。
殺したい程憎んでいた人が実際に死んだのに。
何故だろう?
自分が殺したという罪悪感?
それとも自分の父さんだから?
言葉で説明出来ない感情が孝太の中で渦巻いている時、
「……依頼は解決した。」
「え?」
少女は孝太の後ろに再び現れた。
「あ、うん。今テレビで知ったよ。……ありがとう。」
「……感謝の言葉はいらない。私は解決料を貰いに来ただけ。」
「……分かったよ。でも、解決料って何?お金?」
「……いいえ。お金なんかじゃない。解決料は貴方の『宝物』。」
「僕の『宝物』?何を払えば良いのか分からないよ。」
「……もう決まっている。」
「?」
少女が孝太との距離を詰める。お互いの息がかかるぐらいの距離。
孝太は自然と距離を開けようとしたが、体が動かない。
「……私が貴方から貰うのは記憶。」
「記憶……?」
「……そう。それも母親と過ごした記憶。」
「え?じゃあ……」
「……貴方は母親に関する事の全てを忘れるでしょうね。顔も。優しさも。温もりも。」
「だ、駄目だよ。それは渡せない。母さんだけは渡せない。」
「……それが貴方の『宝物』である限り私はそれを貰う権利がある。」
「駄目!母さんとの思い出は僕の物!誰にも渡しはしない!」
「……眠りなさい。」
少女がそう言うと、孝太の目がゆっくりと閉じてゆく。
今眠ればもう取り戻せない。母親との記憶は奪われてゆく。
孝太は必死に抗った。
だが無駄だった。孝太は眠ってしまった。
「……」
少女は無言で、眠っている孝太の頭に右手を置く。
しばらくすると孝太の頭から手を離す。
離した右手には水晶のような珠が握られている。
透き通る様な綺麗な珠。
中には幼き日の孝太と母親が笑顔で映っている。
おそらくは孝太にとって最も大切な瞬間であり、『宝物』であったのだろう。
少女はしばらくその珠を眺めてから呟いた。
「思い出は大切なモノ。失ったら二度と巡り合う事の無いモノ。……砕けろ。」
少女の最後の言葉と同時に珠には亀裂が入り、すぐに砕ける。
破片は落ちながら跡形も無く消えていく。
「……怨み晴らされました。」
そして、少女もまた跡形も無くその場から消え去った。