ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Chapter1 【母親】 Episode6 ( No.9 )
- 日時: 2011/02/18 11:39
- 名前: メルー ◆f2oDWArF9w (ID: hH8V8uWJ)
さっきまで目の前にいたのは少女だった。
だが、今目の前にいるのは自分の妻だった女。
それもすでに死んだはずの。
「どうして?私を捨てたの?」
死んだはずなのに目の前にいる。
死んだはずなのに話しかけてくる。
孝三はパニックになった。
「な…何故お前がここに?し、死んだんじゃなかったのか?」
「……私は死んだわ。……いいえ。殺されたのよ。」
「殺された?お前は自殺したはず……」
「貴方が私を捨てるから。貴方に殺されたようなものよ。」
「……私の知った事ではない。お前が勝手に死んだんだ。」
「……確かに原因が貴方にあっても自殺には変わらない。だけど、そんな事はどうでもいいのよ。」
「なら、何故私の目の前にいる?」
「……我慢出来ないのよ。貴方の幸せが。貴方の笑顔が。
貴方が生きている事が!」
「そ、そんな事死んだお前には関係ないだろう!早く消えろ!」
「……だから私は決めた。」
女が一歩近づくと、孝三は二歩遠ざかる。
「な、何を決めたんだ?」
孝三が女との距離を保ちながら聞く。声は若干震えている。
「我慢出来ないから……貴方を……殺すことにした。」
女が近づく速さを上げると、孝三は全力で逃げた。
気付けば駅だった場所も、何も無いただの暗い空間に変わっている。
「貴方は逃げられない。私から逃げられない。」
孝三は全力で走っていたが、女との距離は開かない。
「諦めなさい。そして……死になさい。」
後ろから聞こえる声がだんだん大きくなっていく。
気になった孝三が後ろを振り向くと、すぐ後ろに女がいる。
そして、こっちに手を伸ばしていた。
— 捕まったら死ぬ— 孝三はそう思って必死になる。
が運が無い。
孝三は躓いて倒る。
女はそんな孝三の真横に来て言う。
「鬼ごっこは終わり。」
そのまま孝三に抱きつこうとする。
反射的に孝三は目を閉じて叫ぶ。
が何も起きない。どれだけ待っても何も起きない。
孝三はビクビクしながらもゆっくりと目を開ける。
何も無かった。
目の前にはさっきまでいたはずの妻はいなかった。場所も駅に戻っている。
「…何だったんだ?……そうか。夢だったんだ。」
孝三はその場で大きく笑う。
「そうだよな。死んだ人が目の前に現れるわけないよな。今までのは酔っていたせいだな。」
また大きく笑う孝三。
だが、すぐにある事に気付き顔を青くさせる。
次の瞬間
孝三は血と肉片へと変わった。
一部始終を見ていた少女はさっきまで孝三だったモノに言う。
「……伝言は『死ね』。」
言い終わるとすぐに少女の姿は消えた。