ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 亡国の姫君 =END WORLD= ( No.11 )
- 日時: 2011/02/25 20:37
- 名前: 彰緋 (ID: cPRWXRxr)
第三話 華の思い出、紅の欠片
「お姉さま!!」
「どうしたの?ミリィ」
ふわりと笑ってセラを呼ぶ少女……ミリィは大好きな義姉と二人で小さなガラス玉をちまちまと紐に通し、一つのブレスレットを作っていた。
目が見えない彼女にとっては困難なことだったが、慣れてきたのか次第に速くガラス玉のブレスレットが出来上がっていく。
「こんなに出来ました!見てください!」
「分かったから、落ち着いてミリィ。……へぇ…とても上手よ」
頬を紅色に染めてブレスレットをセラに見せたミリィは満足そうに頷いて、再び作業にとりかかる。
一つ一つガラス玉が光って、小さな蛍のように思えてくるこの遊びは、昔、母さまから教わった。今はもう死んでしまったが……。それでも、この国と妹といられるだけで幸せだった。
そのとき-------
いきなり外から何か爆発したような音が聞こえた。
鼓膜をつんざくような轟音はその場にいた二人と、女中や召使を驚かせた。
「な……何!?」
「セラ様!!」
突如として起こった事態に狼狽していたサラのもとに一人の兵士が駆けてくる。
「これはいったい何事なの!?」
「隣国の……エルフォード国が攻めて来ました!要求は、この国に伝わる秘宝を渡せと-------!」
セラは目を見開いた。この国に伝わる秘宝……それは-------
「お姉さま……」
大切な妹の声ではっと我に返ったセラは急いで命令をくだした。
「全軍直ちに出撃体制を!怪我人がでたら、優先的に救護隊へまわせ!」
声を張り上げて叫ぶセラに家臣達は一つ頷いて部屋を後にする。
私はこの国とこの娘を守らなければ-----
しかし、ほとんど争いの起きないこの国の戦力は到底、大国エルフォードにかなうはずがない。部屋を包囲され、次々と敵兵が潜入してくる。
刹那---------
ひとつ、銃声がなった。
セラは見た。自分の目の前で小柄な影が倒れる。その影は……
「ミ、リィ……?」
どさりと音をたてて倒れこんだのは、自分の最も愛した妹、ミリィだった。
その手には、先ほど作っていたブレスレットが握られていて、赤いものが滴っている。
そのとき、唇が動いた。
「に……げて、お姉さま……」
「………!?」
かすれて、音にならない声が紡いだ言葉はもう、時がないことを物語っていた。
地面にはバラバラになったガラス玉が散らばって、輝いている。彼女の、涙のように。
「セラ様、速くこちらへ!!」
「や………ミリィ!?ミリィ!!」
何度も何度もミリィの名前を呼ぶが、彼女の耳にもう届くことはない。二度と。
「セラ様!」
「いや、いやよ!ミリィを置いて逃げるなんて出来ない!」
「セラ様っ!!!」
一人の家臣に名を呼ばれ、ゆっくりと振り返ったセラの頬は、涙に濡れて痛々しいものだった。だが………
「セラ様……お逃げください。大丈夫です、私たちは。ミリィ様もそれを望んでおいでです」
そう。さっき言ったミリィの「逃げて」というのは彼女の願いだ。
それでもその場を動こうとしないセラを今度は沢山の家臣が引っ張る。
「………っ!?何を……」
「生きてください。生きて……」
にこっと笑う家臣達は皆、セラを信じていた。愛していた。だから、守らなければ。そんな強い意志が込められていた。
* * *
つぅっと閉じたセラの目から一筋の涙がこぼれ落ちる。
ベッドに寝かされたセラは、夢を見ていた。時々うなされては抗う声を発し、びっしょりと汗をかいていて………
「…………?」
様子を見ていたレイラが手を彼女の額にそっと触れる。レイラは目を見張った。
高い熱だ。いけない、このままでは弱って死んでしまう……
急いでタオルを水に浸してセラの汗を拭う。
「つらかったんだね……」
小さな声で呟いた言葉は彼女には聞こえないだろう。しかし、セラはうわ言のように言葉を発した。そして、もう一度涙が頬を伝う。
「みんなに……あいたい、よ……」