ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 亡国の姫君 =END WORLD= ( No.17 )
日時: 2011/03/05 22:19
名前: 彰緋 ◆xPNP670Gfo (ID: cPRWXRxr)

第七話 血濡れた刃

ガヤガヤと賑わうこの街、エルフォード国の首都であるユリアルではいつもどおり商売人や、客でいっぱいだった。
その人混みの中を青年と少女が並んで歩いていた。
青年のほうは、茶色の鎧……といっても、とても簡素なものでほとんどまるごしといっていい。少女のほうは、ぶかぶかのフードをかぶっている。

「このまま歩くだけでいいの?何にもしてないじゃない。警備隊っていっても……ライ、聞いてる?」
「ああ。聞いてる。まぁ、いつもこんな感じだ」

少女………セラが疑問をとなえると、あっさりした様子で答えた青年………ライはスタスタと歩いて人混みの中へ入っていった。そう、ここは初めてライとセラが出会った場所だ。


さて。話は今日の朝までさかのぼる。
セラには何もすることがなかった。迂闊に外をうろうろしていればいとも簡単に捕らえられるし、かといって家でのんびりともしてられない。そこで……

「俺達についてこの国を散策するってのはどうだ?」

こう提案したのはライだった。レイラやアシルは反対したが、結局ライについて国を散策することになった。
もしかしたら、この国にあの久遠の宝があるかもしれない。それに、幹部であるライについていけば、ただの兄妹にしか見えないだろう。
………というわけで。

「はぁ……散策はしてるけど、何もないわよ?」

盛大にため息をついたセラは肩をおとす。かれこれ、何時間も歩いているので体力も気力も限界だ。

「少し休むか?」
「そうしてもらえると、助かる…」

ふぅともう一度ため息をついたセラは、ちょうど、丘の上にあるベンチに腰掛けた。
首にかけている薄緑の石が、太陽に照らされて鈍くきらめく。
この石を持つだけで、本当に宝のありかが分かるのだろうか。今まで、それらしい反応はしない。
刹那------
ぴくりと隣に座っていたライの肩が揺れる。視界の隅でそれを捉えたセラは首を傾げた。

「どうしたの?」
「そろそろ、仕事だ。いくぞ」

どういうことだろう。今までのことは仕事ではないのか、そう考えがよぎった瞬間、がっと手をつかまれて、全力疾走で丘を走りぬける。その先には-------

「ちょっと馬、借りるぜ!」

呑気に立っている馬にひらりと飛び乗ると、セラもつられて跨る。馬術は小さい頃にやっていたので苦ではない……が、

「ちょっと!どこ行くのよ!」
「だから、仕事っ!」
「意味分かんな……っ!」

ガクンと体がのけぞる。振り落とされまいと懸命に力を入れると、馬が急停止した。

「ここ…………」

周りは瓦礫ばかりで、とても先ほどのユリアルと同じ国とは思えない光景がそこにはあった。
瞬間、背後から殺気のようなものを感じたセラは振り返る。しかし、それより先にライが剣をぬいて、相手を一刀両断した。
血飛沫がまい、断末魔の絶叫が轟く。

「どういう、こと……?なんで……」
「これが仕事だ。ほら、よく見てみろ」

地べたに転がる亡骸をライは足で転がす。
すると、それは灰と化しサラサラと崩れさった。

「こいつは人間じゃない。化け物だ。警備隊なんて名前だけ。これが、俺達の仕事だ」
「?化け物なんて……」
「こいつは、皇帝の仕業だな。これは、化け物作って国を攻めおとすための実験…てかんじかな。いずれ、ロザリア国も滅ぼす気でいる」
「なんで、それがここに……」
「元々、それは薬だったんだ。こいつらは既に死んでる。それをこうして生きた屍にさせてほうっておきながら様子を見るっつーわけだけど……」
「だけど?」

ざっと説明していたライが言い淀む。やがて、のろのろと口を開いた。

「暴走すると、人間を殺すくらい凶器になる。だから、こうやって見張ってる」

所々意味が分からない所があるが、それはともかく。
今までそんなこと全く知らないでいた。皇帝がこんなものを作っていたとは。いずれ国を滅ぼす気でいることも、今まで知らなかった。
セラの表情に恐怖が宿る。こんなこと、人間がしていいことじゃない。
ライは深呼吸すると、もう一度馬に跨った。

「今日はとにかくかえるぞ」

そう言い置いて、セラを促したライの顔には険が宿してあった。
前に、皇帝のことを嫌いだと言っていたのを思い出したセラは、きっとこのような事とも関係があるのだろうと思った。