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Re: 亡国の姫君 =END WORLD= ( No.19 )
日時: 2011/03/06 08:43
名前: 彰緋 ◆xPNP670Gfo (ID: cPRWXRxr)

熱い日差しの注ぐこの日は、蝉時雨が一斉に鳴いてとても夏らしさを感じさせてくれた。露店列に店を並べながら、セラは合間を伺って話を切り出した。

「ねぇ……」
「なに?」

どんなに忙しくても、必ず手を止めてこちらを見てくれるレイラに、彼女は意を決して問うた。

「ライはどうして皇帝が嫌いなの?」

この疑問は随分前から胸中にあったものだ。一瞬レイラの顔がこわばるが、それだけだ。セラは気づかない。

「ライから何も聞いてないの……?」
「え?」

聞いた……、何を聞いた?あの、化け物の事だろうか。
そんな事を考えていると、レイラはうつむき、小さく言った。

「それは、本人から聞いたほうがいいわ」

レイラはそう言うと、もう一度手を動かし始めた。
この露店は、レイラが「街娘」と化けて働く場所だが、実際にこうでもしないと生活していけない。警備隊といっても、給料は微々たるものだからだ。

「しかし、まぁ……ライはいつになったらきちんと話すのかしら……」

その呟きは、賑わう人々の声に消えていった。

    *     *    *

「………っと、これで四人目だ」

二人の剣からは、赤いものが滴っており、服や腕、顔にまでべっとりついている。

「最近、よく見かけるようになったな、この化け物……」
「あぁ。こいつら、間違えてユリアルの方へ行ってみろ。もう大惨事だ」

乾いた笑みを含ませて、剣を鞘に収める。
いつの間にこんなに繁殖したのだろうか……前はここまで多くはなかったはずだ。

「とにかく、戻るぞ。あっちにもいるとなると、相当やばい」

ラックスが合図をする。ライもそれに続こうとしたとき……

「………っ!?」

何か居る。化け物じゃない、何かもっと危険な何か。
人……老婆だ。しかし、こんなところに人など住めない。

“…………という夢を見たの”

先程セラが語った夢に出てきた老婆。
あれは-------

「?おい、ライ!何やってんだ?早く行かねぇと………」
「エルフォードの魔女………」
「は?」

ライが指差した方向には-------

「何にもないぞ?おい、大丈夫か?」
「……っ!?さっきまでそこにいたのに……」

目の前にあるのは、積み上げられた瓦礫だけだ。おかしい。たしかに、居たのに。

「疲れてるんじゃないか?今日は早々に切り上げて……帰るか?」
「あ、あぁ。そうなの、かもな」

しかし。本当に幻覚だったのだろうか。
もしかしたらラックスの言うとおり、疲れているのかもしれない。
ライは駆け足でラックスのあとを追った。