ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 亡国の姫君 =END WORLD= ( No.24 )
- 日時: 2011/03/13 23:02
- 名前: 彰緋 ◆xPNP670Gfo (ID: 9nPJoUDa)
番外編part1 「人」との出会い
人じゃあない。みんな、へこへこ頭を下げて機嫌ばかっかりとればそれでいいと思ってる。
“くだらない”
この一言に過ぎる。こんな生活、退屈以外のなんでもない。しかも、国を滅ぼしてまで領地を広げたいとは。自分の父ながら、随分と傲慢極まりない。
しかし、もう関係ない。皇位継承権は破棄したし。これから、どうするか……
夕暮れのユリアルの街を歩き周りながら一人の元皇族……ライが思案に暮れながら歩いていた。
「はぁ……俺、どうすんだよ……」
ため息をついて肩を落とす。しかし、後悔はしていない。あの男……父である皇帝にはもう散々だった。
母親はもう昔に他界した。これも、父のせいでもある。本当に憎たらしい、あの男……
しかし、だ。今さら金もないし、帰る場所もない。
そのとき、後ろからある青年の声がした。
「おい、お前なにやってんだ?」
茶色の鎧……警備隊か。そう思考が巡ったとき、ガツンとおおきな音がした。
「ラァッッックス!そんな声のかけかたはないでしょう!?ったく……あなたはいつもそうやって……」
「ってぇ……レイラ……殴んなくてもいいだろう!アシルもなんとか言ってやれ!」
「お前が悪い」
ライは目を見張った。なんだこいつら……
ともかく、この会話からして三人の名前は分かった。
しかし、意外だ。今まで王宮の外から一度も出たことがなかっなのでこんなに個性豊かな人がいたとは……
「えっと……あのさ……」
「とにかく!!その物言いはやめなさい!」
「仕方ないだろう!癖だよ癖!」
「だったら、その癖を………!」
ライは思った。
これが世に言うシカトか………
やがて、笑いがこみ上げてきたライはこらえきれなくなって盛大に吹き出した。
「だー!おい!笑うことはないだろう!んだよ……はぁ」
一人、ラックスとかいうやつがそっぽを向いて、アシルは微妙に頬を緩ませた。女性……レイラはクスクスと笑っている。
こんなに笑ったのは初めてかもしれない。
「ごめんなさいね?私はレイラ。あなた、名前は?」
「ライ、だ。ライ=エルフォード」
レイラはエルフォード……と口を動かす素振りを見せると、次第に顔が蒼白になっていった。
「あの、皇帝陛下の………!し、失礼致しました!無知が故の非礼であったと、ご容赦ください……!」
その場で跪くレイラを見て、慌てて他の二人も頭を下げる。
「えっと……そんなにかしこまんないでいいよ……俺、今はもう皇族じゃないんだ。凡人--------一般人なんだ」
手を振って頭を上げるように言うと、はじかれたように三人は顔を上げた。
「そっか、んなら変な気遣いいらないよな。俺はラックスだ。そっちがアシルで……」
「こら、ラックス!それはやりすぎよ!」
「ああ、いいよ……俺もそっちのほうがやりやすい」
同じ人間なのに、身分とはこういうものか、と実感したライは普段ほとんど意識をしていなかったことに改めて気づいた。
「何故こんなところに元皇族が?」
今まで黙っていたアシルが口を開く。
「さっき、名を返上したんだ。父の……皇帝のやり方がいろいろ気に食わなくてな」
苦笑しながらも一名を除いて表情豊かな人を目の当たりにしたライは、これまで生きていて初めての「人」に会ったと思った。
* * *
「あ〜…あったなぁ、そんな事が……」
「それが初めての出会いだったわよね?」
そういえば、あの後、軽い手合わせをして、その腕前に驚かされたラックスは、ライを引きずって警備隊に所属させた、というエピソードもあった。
「あっ!そういえばまだセラに話してないんでしょう?あなたの父親のこと……」
「時がきたら話すさ。まぁ、そのうちw」
あの娘がここに来てから早二週間。今は、奥の部屋で眠っている。同じ皇族ではあっても、育った環境についてはうらやましいと思う。
「まぁ、俺らは結構気楽で良かったけどな♪」
「私は警備と街での仕事両立してるんだけど……」
「うっ……分かったよ。なら、なんか手伝えることがあれば……」
外はもう暗い。夏とはいえ、夜は冷えるこの街に小さな談笑する声が聞こえた。
あの日、初めての「人」と出会った。
家族のようなものかもしれない。実感は湧かないが……
それでも、こいつらといると疲れないし、退屈しない。
やっぱり出会えてよかったと、思った。