ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 亡国の姫君 =END WORLD= ( No.25 )
- 日時: 2011/03/14 23:38
- 名前: 彰緋 ◆xPNP670Gfo (ID: 9nPJoUDa)
番外編part2 一輪花
これは昔、私がまだ幼かったころの話-------
「ほら!これ、触ってごらん?……分かる?」
小さい紅葉のような手に乗せられていたのは、一つの香り玉だった。
このリンシア国では、こうして小さいガラスの玉の中に、自分の好きな香りを調合して、大切な相手に渡すのを日課としていた。
「いい香り……それに、何か模様がついてますね?」
目の見えない彼女……ミリィは体が弱いので、外に出ることはおろか、立ち上がることさえ困難だった。
指先で確かめるようにして、なにやら赤い花の模様を触っていたミリィは、ふわりと微笑んだ。
「よく分かったね!それは、私が花油を使って描いたの。優しい色であなたにぴったりだから……」
「本当ですか……?嬉しいです!見ることができなくても、こうして触ればいろいろなことが分かるんですよ?」
決して見ることのできない香り玉を、嬉しそうに眺めていたミリィはしばらく、それを大切そうに、ずっと握っていた。
それからミリィが寝静まったのを見てとったセラは、ふいに窓の外へ視線を向けた。
すると、そこにはきちんと毎日手入れされている花畑が広がっていた。
この光景をミリィが見ることはできないものか………
そう考えたセラはふと、目を見開いた。
“こうして触ればいろいろなことが分かるんですよ?”
そうか、触ることができれば……
そこまで考えたセラは、急いで部屋を飛び出して階段を駆け下りた。
「セラ様?お出かけですか?」
「庭に出るだけ!」
途中、驚いて行く先を尋ねる女中の問いを適当に受け流して、大きな扉を開けたセラは、太陽の光と心地よい風を受けて深呼吸した。
「えっ……と、この辺かな?」
ガサゴソと花畑を掻き分けて何かを探す素振りを見せるセラに、女中たちはうろんに首を傾げた。
「……あった!」
そう叫んでにぱっと笑うと、そっと一つの花を摘んで、再び城の中に駆け込んでいった。
「ん〜……花瓶は……あった!あとは水、か……」
ミリィの部屋に戻ってきたセラは、なにやら花瓶のようなガラスのつつを取り出し、そこに水を入れた。
「ん………お姉さま……?」
「あ、ごめん……起こしちゃったね」
まだ眠そうに目をこするミリィに、苦笑を投げかけたセラは、とてとてと花瓶にさした赤い一輪花を持ってベッドまで走った。
「これ、触ってみて……分かる?」
「これは………花ですか?」
花の形が崩れないように、意識しながら触っていたミリィを横目に、セラは楽しそうにして笑った。
「さっきの香り玉に描いた花よ?花畑から摘んできたの♪」
「まぁ………」
すると、少々驚くように声をあげたミリィはクスリと微笑んだ。
「お姉さまのプレゼント……大切にします」
そう言うミリィの表情は、この一輪花のように優しく、温かいものだった-------