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Re: 亡国の姫君 =END WORLD= ( No.26 )
日時: 2011/03/15 09:24
名前: 彰緋 ◆xPNP670Gfo (ID: 9nPJoUDa)

第十一話  皇帝陛下

「……それじゃあ、行ってくる」

軽く身支度を整えたライは、どこか緊張感を漂わせ、背を向けたまま手を振って家を出た。

「でも、やっぱり心配よ………」

そわそわして、落ち着きのないセラを横目に、残った幹部は顔を見合わせた。
セラは知らない。ライと皇帝の関係を……。いずれ話さなければならない時が来ると思っていたが、すっかり後回しにしていた。話さなかったライも悪いが、それを伝えない自分達にも非があると、彼らは自覚していた。
しかし。そうは言っても、細かいことは全く知らない。皇帝の名前が出ると、ライの表情は険しいものになり、殺気立つ。
故に、無理に聞き出すことでもないと判断したのだった。

    *    *    *

この門をくぐるのはとても久しい。
歩いて王宮の前まで来たライは、深く深呼吸した。すると、門の前に立っていた兵士に鋭い目つきで睨まれる。

「貴様……何者だ?」

そう問うと、持っていた槍の先をライの首元へと据えた。しかし、彼は全く動じない。

「この度は、皇帝陛下直属、騎士団総長の命により、警備隊幹部ライが直接、かの「実験」について目撃したことを伝えに参りました。陛下には許可をとってある、との知らせを受けたのですが?」
「実験………だと?」

実験といえば、陛下が直属部隊を作って、内密に進められていると聞いたことがある。自分のような下級の者にはその詳細を伝えられない。ということは、この人物は陛下直属の……
そこまで考えた兵士は、門に手をかけた。
ライは、ぎぎぎぎと大きな音をたてて開いた門を一礼してから入る。
あとは、あの部屋に行くだけだ。うっすらだが、記憶には残っている。
やはり、王宮の中には沢山の兵士がいた。何者だ、と問われるたびに上手くごまかして進んで行く。
やがて、他の部屋とは違う、大きな扉の前まできた。この中にあの男がいる。

「陛下に、客人であらせられる者が参りました」

自分のとなりに居る兵が声を上げる。すると、扉はゆっくりと開いた。
中は昔とほとんどたがわない。豪華絢爛な宝石やら飾り物で彩られ、気味悪いとさえ思う。

「--------人ばらいを」

その部屋の奥に座っていた人物が、厳かに命じた。すると、兵士や女中は一礼して部屋を後にした。
ライはその場で跪く。

「この度の訪問につきましては、何の前触れもなく、無礼は承知の上でありますが……」
「いらぬ。貴様が伝えたいのは別のことであろう?」

ニヤリと笑う皇帝に、ライの表情がさらに険しくなる。

「では、本題に。……何故ロザリア国へ戦線布告の書状を?」

冷たく、冷淡に問いただすライに、皇帝は顔色を変えず言った。

「別段、深い理由もない。邪魔だからだ」
「……っ!?」

これには、ライもはじかれたように顔を上げた。
邪魔だから滅ぼす?この男は情の欠片もない物欲の化身だ。しかし、ここまでとは。

「そうですか……では……っ!」

出来るだけ冷静に、今まで悟られないようにしてきたライの目が見開かれ、懐からナイフを取りだす。
彼の首元を狙って、地を蹴ったライは凄まじい勢いで間合いを詰めた。
-------今なら殺れる。
そう直感した直後、ナイフを持った手に激痛が走った。

「……っ!?」

銀色の髪をなびかせ、間合いに何者かが滑り込む。その人物は……

「……魔女!?」

この人物は、前にセラと共に本で見た。
ライの表情が驚愕で彩られる。
刹那、その魔女の手が彼の頭を無造作に掴み、床に叩きつけた。

「くっ………」
「陛下、この者、如何いたします?殺しましょうか?」

魔女の表情は見えない。しかし、声からして楽しんで笑っているようにしか思えなかった。

「---------詫びよ」

皇帝も、先ほどと変わらない声色で、その顔には笑みが宿っていた。

「………申し訳……ありません、陛下」

苦痛と、怒りで震える声に、またもや満足そうに笑った皇帝は椅子から立ちあがった。

「こざかしい……上に、無能な我が息子……」

ゆっくりと歩みよってくる皇帝は、その足を上げ、彼の頭を踏みつけた。
床が赤く染まっていく。しかし、ライはその痛みを表情には出さない。

「これで分かったであろう。さっさと去ね」

なおも、不気味な微笑みを浮かべている皇帝にライは殺気を隠さず、しかし、痛みや怒りをやはり表情には出さずに一礼してその場を去った。