ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 亡国の姫君 =END WORLD= ( No.4 )
- 日時: 2011/02/20 20:59
- 名前: ユフィ ◆xPNP670Gfo (ID: cPRWXRxr)
第一話 血汐にまみれる愛しき祖国
乾いた風が肌を打ち、肩につかないくらいの髪があおられて踊る。髪飾りの布は大きく翻り、砂埃が空へ舞う。
その大地はすでに死して木々や草は一本もない。そんな土の上を名残惜しそうに歩く少女がいた。
彼女こそ、かつて桃源郷だったこの国の王女——セラ=アルベ=リンシア。
帰ってきた。愛する祖国へ。なのに——
「…………っ……」
がくりと乾いた土の上に膝と手をつけ、声もなく泣きじゃくる。鳴咽が漏れないように必死に息を止め、唇を噛んだ。
あの日に私は逃げ出した。大切な民を捨て、国さえも捨て。王女でありながら、大切なものを何一つとして守れなかった自分が憎い。
ぐっと手の平を握りしめて再び立ち上がったセラは、砂埃とすでに乾いて黒ずんだ血に汚れた服の一部を破り捨てた。
行かなければ。帰って、まだ生きている者の手当てを……
——生きている者なんて——
瞬間、何かが頭をよぎった。いいや、大丈夫。きっとまだみんな生きている。そう信じているのに、目に浮かべてしまうのは……
本当は分かっている。心のどこかではもう駄目だと、全てが遅過ぎると。
それでも。この足を止めるわけには——
刹那。セラは息を飲んだ。
彼女の目に飛び込んできたのは沢山の兵士の亡骸と、かつて暮らしていたはずの王宮。
王宮はすでにボロボロでその影さえも残ってはいなかった。壁には赤いものが所々染められて、辺り一面が地獄絵図そのものだった。
大きく瞳が揺れる。足が動かない。声も出ない。ただ、幾度となく流れる涙が頬を伝って死んだ大地に染み渡る。
* * *
——この国を、もう一度かつてのように理想郷とさせたいのならば——
——そなたが手に入れるのだ——
——久遠の宝を——
厳かに響く鈴のような声色。
セラは意を決し一つ誓った。
「……この国を………取り戻す」
顔を上げて広い空を仰ぐ。この命に変えてでも。
私は————