ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 私の心の声を、叫びを。★参照100突破です★ ( No.22 )
- 日時: 2011/03/26 15:47
- 名前: 緑紫 (ID: rb3ZQ5pX)
- 参照: 春休みだね、嬉しくなんてないけど。
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にこにこと笑いながら、買い物帰りの女性が小さなあまり目立たないカフェから出てくる。
「今日も人気者かしら? あの子」
歳を感じさせない真っ白な、透き通っている気さえする肌と、一見大人と分かり難い身長、茶髪で膝まで無造作に伸ばされた髪の毛。 そして痩せ細った身体。
彼女は実年齢38歳には見えない程幼い足取りで歩く。
何故か突然立ち止まって空を見上げたりする少々不思議な人物であった。
「……あっ、カレーのルー買ってくるの忘れちゃった」
と声をあげ、近くに見えるスーパーへと足を運んだ。
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彼は何を考えているのかとんと見当がつかない。
昴が雄太に抱いている印象はそれだった。
何故か小学校3年の秋から、突然自分のことを追いかけまわしてきたり、やたらと一緒にいることが多かったり。
でもそれは、ただの友達行為のようなものとして受け取っていた。 ある日までは。
それは小学5年の夏休み直前。 昴は雄太と一緒に帰っていたのだが、会話が続かなくなってしまったため、彼女はどっかそこらへんを歩いていた同級生の男子に声を掛けたのだ。
それが原因だったのだろうか、突然雄太の顔がまるで鬼の形相で。 昴の胸倉を掴み、そのまま地面に押し倒し、のど元にカッターを突き付けた。
「ねぇ昴。 どうしてぼくと喋らないの。 そんなにぼくが嫌い? ぼくはきみのことこんなに好きなのに。 好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで、たまらないのに………ッ」
初めて知ったときは、その体勢のままでびっくりしてしまった。顔が赤くなっていくのが自分でも解った。
「どうしてわたしのことなんかが好きなの? わたしは他の人と比べたら劣ってるし、アレルギーだし、可愛くなんてないし」
空耳か何かだろう、そんなことを思いながらも訊き返す。
だってこんなに容姿端麗な人が、不細工な自分になんて目を向けることすら可笑しいのに。
「解らない。 でも気付いたら好きになってた。 昴が離れていく事実が考えられない。 愛おしくてたまらない。 全てぼくのものにしたい。永遠に」
少しずつ気味が悪くなっていく彼の発言。
「好き好き好き好き愛してる愛してる愛してる」
そんな言葉を耳元で囁かれても昴には理解出来なかった。
人様に、否それどころか、世界にさえ存在を認められていないような自分が。こんな形で愛されてしまっても良いのだろうか。
「昴…? ねぇ訊いてる?」「え、あぁうん」
「きっとね、昴はぼくのこと好きすぎて意識が遠のいちゃったんだ、ねぇそうでしょう?」
違うとは言いきれず、否定も出来ず、ただ硬直する。
そうしている間に、昴の右腕を何か不思議な感覚が襲った。
「………………ぅ…?」
夕焼け間近の赤い空だが、それに負けない程の赤い体液が肘から手首までをつたって流れてくる。
それは昴の嫌いなもの。
血。
「っ……、い、…いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
発狂したみたいに叫ぶ。 もう誰もいなくなった遊歩道で、静かに鳴く蝉さえも黙らせてしまうくらいの大声で。