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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 巡ツテ地獄 ( No.1 )
- 日時: 2011/02/18 17:37
- 名前: 毒を食らわば皿まで ◆jS4UFL/cLE (ID: gwrG8cb2)
「いたぞ、敵国の姫だ!!」
「捕らえろ、捕らえろー!!」
炎上する城に、たった一人で、怯えた様子もなく立つ姫と呼ばれた存在。
彼女は不敵な笑みを浮かべて、こう告げた。
「可愛い蘭の花の復讐ね。愉しい所に連れて行ってくれるんでしょう?」
第壱章 「蘭花の覚醒め」
「……そうですか、よくやりました」
彼女は蘭姫。かつて城を滅ぼされ、父母を殺され、それでもまた姫と言うに相応しい地位にまで登ってきた女。
否、女と言うには余りに幼い。まだ少女の顔つきをしている。
「あの女の拷問は如何様に……」
彼女に跪き、敵国の姫を捕らえた事を告げる兵。顔には疲れの色がありありと見える。
姫きっての願いで、わざわざ遠方の、魔が棲む国から攻めたのだ。
「私が直々に確かめます。あの者が、本当にお父様より力を誇ったお方なのか……」
その大きな黒い瞳には似合わない、憎悪の色が広がる。その瞳はただ遠くを、誰も知らない遠くを見ていた。
「……」
蘭姫の前には、麻の縄で縛り上げられた、蘭姫より幾分大人の女の身体が在った。
蘭姫に見下ろされ、怯えた様子なくただ口元に薄い笑みを浮かべているのは捕虜に取られた艶香と言う女。
「……」
二人の間に沈黙が流れる。あまりに短いが、永遠と感じられる時間。人の感覚は不思議なものだ。
「……貴方が殺めたお人の名前は、お忘れでしょうか……」
蘭姫は不意にこう告げる。艶香に問うたのではない。ただ、本当に呟いただけだった。
「一々殺した人間の名前なんて覚えてないわ」
挑発気味に艶香はこう言う。答えなければ、彼女の憎悪を再び燃え上がらせる事はなかった。
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