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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 巡ツテ地獄 ( No.3 )
- 日時: 2011/02/19 09:28
- 名前: 毒を食らわば皿まで ◆jS4UFL/cLE (ID: gwrG8cb2)
小太刀に近づく白い胸元。やがて、小太刀はその白い肉の間に分け入り、赤い血を滴らせる。
「いやっ!!」
軽く刺さった程度。勿論、蘭姫が力を込めたのではない。艶香が自ら傷を付けた。
「如何したのよ……。貴方は私が死ぬ事を望んでいるのでしょう?」
本当に不思議だ、と言う顔を艶香は見せた。殺したい相手を何故殺さない。
何故殺す事に躊躇いを持つ。あまりに人を斬りすぎた艶香には、それが解らなかった。
「確かに、この時代は人を斬っていかないと生きていけません。でも……」
蘭姫の声に、艶香は静かに耳を傾けていた。自分とは全く違う感覚を持った、その女に惹かれたのだった。
「やっぱり人を殺すのは悪い事なんです。それはどんな世界でも変わりません」
喩え恨んだ相手であろうと、同じ人間から生まれた同じ人間。何処かで繋がりはあると思う。
その繋がりを絶やす事は、蘭姫にはできなかった。
「……綺麗事ね」
反吐が出るほど綺麗事。この時代、人を殺してはいけないと教わった人間はいない。
教え通り、憎しみ合い、殺し合い、裏切り合い……。この汚い世界に従って行く。
だが、次第に感覚は麻痺し、憎しみ、殺し、裏切り……。それにある種の快楽を覚えるようになった。
所詮人間は自分が一番可愛い。誰だって自分が死にかければ、どんな存在であっても見捨てる事が出来る。
それが一番人間らしい。人間らしく足掻き、時には裏切り……。その無様な様を艶香は嗤っていた。
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