ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 【瞳の奥】〜shadow moon〜 ( No.1 )
- 日時: 2011/02/20 09:50
- 名前: るりぃ (ID: opLc/10u)
- 参照: 携帯から
ひゅう、と呼吸が掠れきた。
一体いつから私は逃げているのか、わからなくなってきた。
いえ、そのきっかけはちゃんと覚えているわ。
闇色の天を焦がす、紅蓮の大火。
めぐる炎に崩れる家。
それは私の幸せが崩壊するという絶望の時。
「お前がいると、足手まといなんだよ!!」
「早くお逃げなさい。」
「また、会おう、絶対。」
「早く逃げろ!! この馬鹿!!」
駆け落ちに一番協力してくれた私の親友で、深い森のような髪の毛の緑川 葉さん。
私の大切な従姉妹、炎のような深紅の瞳の持ち主で、毒花のように妖艶で美しい紅 冷嘉さん。
冷嘉さんの養子で、純粋で、蒼い海のような髪の毛の持ち主で、いつも笑顔の烏魔 蓮君。
私の、一番大切な人、輝く太陽のような髪の毛の持ち主、見るものを和ませる茶色の瞳をもって人の輪を作る。
文字通りの“太陽”だった、陽汰。
例え、偽善者と、機械人形と、黒烏と、惑人と呼ばれた人達だとしても、私は皆が、陽太が好きだった。
言葉では表せなくらい大好きで、失いたくなんてなかった。
戦えない私はとても無力で、それでも皆の分を生きないといけないと思ってただ走ったの。
背には紅く燃える私達の家だった場所がある。
足がもつれて幾度も転ぶ。
そして膝から血がでても、それをちっとも痛いなんて思わなかった。
ただ心臓の場所が切なくなって、瞳から零れる涙の感覚だけが私の全てだった。
気配を潜めて呼吸を殺して。
どんどん兄様に粛清されていく私の仲間や友達。
戦えない女一人の逃走劇をしている私にはすぐに追っ手がかかる。
冷嘉さんと葉さんの姪にあたり、特に冷嘉さんとは似ていると言われていたから当然だった。
それでも私は生きないと。
そう思ってずっと、あの時から、ずっと—————
————逃走劇の終焉はいつのことだったか。
気がついた時に見えたのは、兄様の部下たちが着る。漆黒の服。
ああ捕まってしまったのだと。
私の大好きな人たちの分を生きられなかったのだと。
それがとても悲しくて、それでも少しだけの安堵を覚えて。
これで皆のところへ行ける、と。
死を待ちぼうっとしていれば、ふと聞こえてきた声。
「ようこそ、僕のマリオネット。」
そうよね。
分かっているわ。
私は兄様の妹だから。
私は兄様のために生きなければ。
————全てをうしなったのは、満月の夜。
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title by…シオン:花言葉【あなたを忘れない】