ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 僕らの彗星 【参照600突破!感謝感激雨嵐】 ( No.199 )
- 日時: 2011/05/06 21:47
- 名前: 月夜の救世主 ◆WABCAFs6Hg (ID: rs/hD2VF)
- 参照: 良いものほど盗りたくなるもんなんですよ。
そんな昔話を思い出す、黒怨。
今更思い出したって、関係ないかもしれないが。
ケーサはもう直ぐ近くだ。教会が地獄の針山のようにとんがって出ている。ストラノによれば、その教会の中で一番大きいものだそうだ。今頃ストラノは色々と大変なことになっているだろう。黒怨に罪悪感が纏わりつく。
ウーラノスを石に戻し、ケーサの道を歩く。神聖なるこの場に、自分が踏み出してもよいのだろうか。サクサクと雪が踏む音と、自分の息しか聞こえない。
そしてとうとう、自分の目の前に白い大きな教会が立つ。夜の雨がとても冷たいが、そんなことは関係ない。震える手で、木の扉をコツコツとノックする。おくから「うーい!」と返事する声。
扉を開けたのは、ルイスだった。「誰だ、こいつ」みたいな顔を一瞬したが、「ま、いっか」と言いながら、黒怨を教会に入れた。七色の窓、十字架に貼り付けられるどこぞの教祖。メラメラと燃える松明。
奥の部屋から、シルクハットを着る奇術師エルメスとノーテとそっくりな男マティーナが出て来る。
「黒怨……だな。」
マティーナの問いに、嘘偽りなくコクリと頷いた。「こっちだ」と呼ばれてきたのはノーテが眠る部屋だった。目を瞑って、いつものように笑っていないノーテを見るのは初めてだった。いつも寝ているときだって楽しい夢を見ているわけでもないのに笑っていたのに……。
「生きてる。生きてるけど、ほぼ死んでるようなものだ。五感が無くなった。」
「--------------治しにはるばる、やってきたんですよ。」
「ホ、ホントか!?」
ルイスが黒怨を椅子に座らせて、お茶を注いだ。「ま、一回休めよ。遠いとこから来たみたいだしな」と気遣う。ありがたくお茶を啜って眠るノーテを見つめる。するとルイスが口を開いた。
「おーい、マティーナ!まだ、さっきの話とか聞いてないぞ!」
「あぁ、暴食盗(ゴローシタ)ってなんなんだよ。」
黒怨にとってその言葉は嫌ほど聞いている言葉だった。口が勝手に「知ってるぞ」と答えていた。マティーナは「え、そうなのか。じゃあ代わりに答えて」と黒怨にまわしてきた。
「それは、人間や魔物のありとあらゆるものを吸収して自分のものにする能力だ。俺の仲間にそんな能力を持った奴がいる。そいつが、ノーテの五感を盗ったみたいだ。」
「それが……暴食盗(ゴローシタ)か。初めて聞いた能力だよな。」
ルイスがメモっている。黒怨はふと、机に置いてある写真と大きなリングにつく宝石が目に付く。
「あぁ、それね。こいつのポケットから出てきたんだよ。その左のガキはお前か?」
「間違いない。この宝石だって……あの時、ノーテの部屋に置いた……宝石だからな。」
ボソリと思い出話の裏を話す。ルイスは「んあ?なんだって?」と耳に手を当てて聞こうとする。「何にも無い。」と黒怨は誤魔化した。
そして、黒怨は椅子から立ち上がってノーテの元へと寄る。
「さあ……ノーテに起きてもらおうか……。」