ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 僕等は非日常に恋をする ( No.2 )
- 日時: 2011/02/24 12:40
- 名前: 千臥 ◆g3Ntw.kZAQ (ID: 4fZ9Hn2K)
act.01 【始まりは僕等の好奇心から[ⅰ]】
「千歳千歳千歳!!」
午前の授業が終了し、昼食時間となった。
そんな時、廊下辺りから聞き慣れた声が聞こえる。
馬鹿の一つ覚えみたいに自分の名を連呼するのはアイツぐらいだ。
久我千歳(クガ チトセ)は残り数秒で教室に乱入してくる人物の顔を思い浮かべ、額に青筋を浮かべた。
「千歳!! 聞いたか!?」
ほら、来た。
乱暴に開けられたドア。
そこには友人である柏木伊月(カシワギ イツキ)が立っていた。
恐らく廊下を爆走してきたのだろう。
随分と息を切らしているようだ。
「聞いてない。聞かない。興味ない。帰れ!!」
千歳は目の前に立った伊月にそう言って、己の昼食である調理パンを頬張った。
「今回の都市伝説はすげぇんだよ!! 目撃者も被害者もいるんだから!!」
いつもなら一度断れば、勝手に喋って勝手に満足して帰っていくのだが……。
今日はなんだか妙に息巻いている。
……正直、引いてしまいそうだ。
いや、引いた。
「……分かった。聞いてやるから早く話せよ」
伊月の目の輝きようはもはや異常の域ではないだろうか。
最近流行りだした“都市伝説”
嘘くさいものから現実味のあるものまで……。
たった一ヶ月の時間で千歳達の住む地域は都市伝説で埋め尽くされた。
情報と流行に敏感な高校生の間でも瞬く間に広がったのは言うまでもない。
「いいか? 今回話すのは……」
“切り裂き魔”
どうやら今回の都市伝説は切り裂き魔、というものらしい。
伊月の話では、少し前から刃物を持った人物が夜間うろついていると噂されており、男か女かも分からない。
その刃物は刃渡り20cm程のナイフか何からしい。
そして目が合うと、
「貴方の血が見たいの……」
なんて物騒なことを呟いて笑うらしい。
だが、襲ってくることはない。
ただそう一言言って消えるらしい。
「へーそーなのか。……よし。伊月、お前今すぐ窓から落ちろ。あれだけ息巻いといてそんなメジャーで誰でも知ってるような話かよ!! どこが面白いのか俺には分からん。あえて言うならそんな話、とっくの前から知ってるわ!!」
千歳は伊月に背を向け、パンを食べることに専念することにした。
少しぐらいなら聞いてやろうと思った俺が馬鹿だった。
千歳は大きなため息を零した。
「待て待て待て話はここからだから!! 俺が一番言いたいのは、被害者が出たってことだよ!!」
被害者——
その言葉に少々興味を抱いた千歳は再び伊月に向き合った。
「俺のクラスに竹中、って奴いただろ? アイツが昨日、切り裂き魔にやられて入院したんだってよ」
「ただの通り魔なんじゃねぇの?」
別にこの世の中だ。
人が刺されたりなんてこと、特別珍しくはない。
「違う違う。竹中、ずっと魘されてんだってよ。“来る……。切り裂き魔が……アイツが来る”って」
今思えば、
伊月の話したこの都市伝説が始まりだったのかもしれない。
全ての……
そう、全ての恐怖の
始まり——
始 ま り は 僕 等 の 好 奇 心 か ら