ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 僕等は非日常に恋をする ( No.5 )
- 日時: 2011/02/25 15:47
- 名前: 千臥 ◆g3Ntw.kZAQ (ID: 4fZ9Hn2K)
act.03 【紅き花の想いとは[ⅰ]】
伊月の部屋に通してもらい、彼の母親が淹れた温かいコーヒーを口にした。
呼吸も速まった鼓動も落ち着き、千歳は大きく息を吐いた。
「急に押しかけて悪かったな。俺も焦ってて……」
今考えれば夕方の五時にいきなり押しかけられてはいい迷惑だ。
それに、アレを見た場所なら千歳の自宅もそう遠くない。
それでも伊月の家を目指そうと考えたのは、話を聞いてもらい安心感が欲しかったからだろう。
「別に気にすんなよ。母さんも久しぶりに千歳に会えて良かった、って言ってるし」
それからさっき自分が見てしまったモノの話をした。
さすがの伊月も驚いているようだ。
都市伝説は所詮“伝説”であって、実在するものなんてほんの一握り程度。
そのうちの貴重な一つ“切り裂き魔”を友人が目撃してしまったのだ。
驚くのも無理はない。
「俺も切り裂き魔の存在は信じてる。竹中が襲われて、千歳が目撃したんだから」
「でも本物とは限らない。あの時は焦っててよく考えられなかったけど、ふざけ半分の模倣犯てこともありえる」
そうだ。
有名な切り裂き魔なら、誰かが悪ふざけで真似してもおかしくない。
「でもさ。なら、千歳の言ってた風レベルの足の速さは? 普通の人間じゃそこまで速く走れないだろ?」
「あぁ。……あの速さは普通じゃなかった。でもアレが本物なら、何故俺は攻撃されなかった?」
そう、千歳は攻撃を受けていない。
ただ「貴方の血が見たい」と言われただけだ。
本物だったなら竹中のように襲われていたのではないのか?
「あー確かに……。あ!! 千歳に何か伝えたいことがある、だから襲わない……とか?」
「そんな漫画みたいなことがあるかよ。アホか」
伊月の発言にそう突っ込んで、千歳は小さく笑った。
*
「そろそろ帰らないとな……」
時刻、午後七時半。
流れで夕食までいただいて、伊月や伊月の母親には迷惑を掛けてしまった。
「なら俺送ってくよ。こんな夜道、一人で歩かせたら危ないし」
「そーいう台詞は可愛い女子に言ってやれよ」
なんてどこにでもあるような会話をしながら、すっかり暗くなった夜道を二人で歩いた。
「つかさ、なんで今更都市伝説なんてモノ流行りだしたんだろうな」
しかもこの地域が中心となって。
「あー確かに不思議だよな。俺が小学生の時も流行ったけど、ここまで広がりはしなかったし——」
「ギャアァァアァァッ!!」
二人の会話は耳を劈(ツンザ)くような悲鳴によって遮られた。
聞こえたのは二人の背後から。
「今の……悲鳴、だよな」
「俺、様子見てくる!!」
千歳が制止の声を上げる頃、伊月は既に走り出していた。
「ほら……。やっぱりアイツには主人公の気質があるんだ」
でも、
そんな友人を無視できずに後を追ってしまう俺にも
主人公の友人気質があるってことか?
千歳は前を走るお人好しでお節介な友人の背を急いで追ったのだった。
紅 き 花 の 想 い と は
(まるで主人公みたいな友人の後を追うのも嫌いじゃない)