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Re: 僕等は非日常に恋をする act.03更新 ( No.6 )
日時: 2011/03/14 09:23
名前: 千臥 ◆g3Ntw.kZAQ (ID: QiHeJRe.)

act.04 【紅き花の想いとは[ⅱ]】

少し走った先にある曲がり角。
その曲がり角で伊月は足を止めた。
正しくは、止めざるを得なかった。
「伊月? どうした……」
追いついた千歳は伊月の視線を辿る。
「なっ……!?」

足元まで迫る赤い液体。
鼻の奥を突く、鉄臭さ。

足元に転がるソレは、もはや人としての形を保っていなかった。
人間ではなく、モノとなって転がるのは恐らく先程悲鳴を上げた少女。
酷い吐き気が二人を襲った。
「なん、だよ……これ……」
千歳はソレから目を離すことが出来なかった。
「……切り裂き魔だ。千歳、これは……切り裂き魔の仕業だよ」
伊月は震える指で少し先の地面を指す。
そこにあるのは血で書かれた十文字。

紅 い 花 を 咲 か せ ま しょ う

「まさか……。都市伝説が、実在するなんて……」
「千歳、早く……警察呼ぼう」

しばらくしてやってきた警察の人達。
死体を見慣れているだろう人達でも顔を歪ませる。
「人間の出来る事じゃない……」
一人の警官が呟いたその一言に頷くしかなかった。
第一発見者である二人は幾つかの質問に答え、その後家へと送り届けられた。
千歳達が疑われることはなかった。
二人は凶器になるような物を持ってはいなかったし、なによりあの虐殺を高校生が行えるとは思わなかったからだ。
千歳は制服を脱ぎ捨て、ベッドに沈んだ。
早く、早くあの光景を忘れ去りたかった。
鼻に染み付いた鉄臭さを消し去りたかった。
眠りについてしまおうと瞳を閉じても、浮かんでくる赤。
「あんなのが、現実にあって良いわけがない……」
強く掴んだシーツに幾つかの皺が残った。

   *

『昨日、○○区で起こった殺害事件についてですが——』

昨日のあの事件は朝のニュースで既に伝えられていた。
画面に映る現場は青いシートで覆われている。
朝食を口に運んだその時、あの光景が脳裏に浮かび、思わず口元を押さえた。
「っ!!」
吐き気に襲われ急いでトイレへと向う。
「千歳!?」
母親の焦る声すら耳に入らなかった。
「う……っ、はぁ……」
吐き出してしまうことはなかったが、気持ち悪さが消えることもなかった。
頭に染み付いてしまったあの光景が、
あの臭いが、
自分を支配して吐き気を促す。
「はぁ……。俺って、案外精神面弱かったのか?」
崩れるように座り込み、頭を抱えた。
どんなに忘れようとしても忘れさせてくれない。
伊月も……同じ思いをしているのだろうか……。
しばらくしてトイレから出た千歳を、母親である内海は心配そうに見つめた。
「どうしたの、千歳?」
「いや、急に気持ち悪くなっちゃってさ。別に大丈夫だから」
そう言って朝食を残したまま、家を出た。

「なんで俺が……こんな目に合わなきゃならねぇんだよ……」

呟いた声を聞いたのは、木に止まった小鳥一羽だけ。



紅 き 花 の 想 い と は
(俺はただ平凡で普通な毎日があればそれだけでいいのに)