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- Re: ヴェルデュキア戦記 第一編開始 ( No.3 )
- 日時: 2011/02/26 20:32
- 名前: Ley ◆SAvQ/U.Sqg (ID: BL8fZ.Pl)
俺が見た金髪の女は、手に大剣を持っていた。
その大剣には赤黒い血がベットリとこべりついている。
「は、早まるなぁっ!」
その金髪の女を囲む様に、洋風の服を纏った男達が女目掛けて銃を構えながら言う。
その言葉からは恐怖が充分に感じられ、男の心境と反し金髪の女は凛々しい顔を微動だにしない。
しかし女は怯む事無く、大剣を携え一歩一歩男達に近づいてゆく。
その光景は実に不思議なもので、
銃を構えた男の一人が大剣に肩を切られ、手で押さえながら「うぅ……あぁ……」と悶えている。
場は静まり、知らぬ間にヴァルキュリアの兵士も集まってきている。
あの女何をやらかすつもりだ? ヴァルキュリアの兵士に攻撃されたらぶっ殺されちまうぞ…
「貪欲貴族共! 良く聞け! 私はネメシスからの使途だ!」
女が発した言葉によって、辺りがざわついた。
「無秩序で奴隷制度が採用されている地獄国家ネメシスの使途…?」
「恐ろしい…… ヴァルキュリアの戦士が邁進してでも止められないぞ…」
「誰か止めろ! このままじゃヴァルキュリア王国が滅びるぞ!」
野次馬達は大小様々な声色で、場の空気を煽るかの様に言う。
しかし皆、翳りのある言葉で、どれも“ネメシス”に怯えている様だ。
「私は…ネメシスの使途だ! 貴様等の様な愚民などこの手で簡単に捻り潰してくれる! 真の魑魅魍魎はお前らだと気付け!」
怒号の様な声で金髪の女は荒々しくも言葉を発する。
凛々しい顔は今だ微動だにせず、女は囲んだ男達を獣の如く女は目で睨む。
しかし場の空気は変わりやしない。
それ以前に、凍り付いている ———————“ネメシス”という単語によって。
俺は動けなかった。
動けない自分を哀れと感じる。 左手は徐々にベルトに携えられた銃にへと伸びる、が。
撃てない。 理解に苦しむ不可思議な何かによって。
これを誰かに論弁として喋ったら、誰しもがこう言うだろう 「それは恐怖」だと。
自分は今恐怖という鎖に縛られている。
それを痛感するのに時間は必要無く、大剣を振るうあの女の方が非常に気がかりだ。
しかし…銃を手で握っても、前に突き出し撃つ事が出来ない。
恐怖故の不可抗力だ。