ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 蛻の僕。 ( No.4 )
- 日時: 2011/03/02 21:37
- 名前: 藍零 ◆veyMdjA2J6 (ID: k5KQofO8)
3頁目:友人?っていうのかな
「ルー…そろそろ痛いよ…」
僕がそういってルーを膝から退かそうとした瞬間、家のインターホンが鳴った。
「よぉ〜!久しぶりだなあー!」
「…ケイ」
僕はすぐに名前が出てこなくて、少し間を開けて名前を呼ぶ。
ケイはそれに目ざとく気づくとかみついてきた。
「酷ぇ!俺の名前一瞬忘れただろ!」
しょうがないだろ。
僕はふいっとケイから顔をそらす。
ケイはぶつぶつと呟いていたが、ケイはさっぱりしている奴だから三秒もしたら忘れるだろ。
「ケー!遊ぼ?」
僕の膝の上にいたルーが、ケイの元へ走り寄る。
ケーは驚いて目を見開いた。
「お前があー以外と遊ぶなんて珍しいな」
ま、確かにルーは僕と遊びたがるけどね。
僕は面倒でいつも遊んであげない。
だってルーの遊びは殺し合いじゃないか。
「僕様強くなったんだよー!」
僕様っていうのはルーの一人称だ。
女の子なのに僕っていうのもおかしいし、様をつけるのもおかしいってケイは言う。
「俺だってつぇーぞ?」
ケイは嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「ケイは強いんじゃなくて幸運体質なの!幸運なだけ!」
ルーが怒ったように反論すると、ケイは意地の悪い笑みを浮かべて「運も実力!」と笑った。
ケイは幸運体質。
便利なものだよね、「幸運」って。
幸運体質っていうのは、そのまんま。
幸運なんだ。
たとえばそこで殺し合いが起きたとする。
でも幸運体質のケイは無傷で帰って来る。
自分がその場で殺し合いをしていたとしても。
「むぅ〜…僕様怒った〜」
ルーが拳を構えて呟く。
ルーの拳は岩も粉々しちゃうからね。
当たらない様にしないとすぐにあの世行きだ。
「待ちなさい貴方達」
ルーが拳を振り上げ、ケイが足を突き出そうと瞬間、今帰宅したばかりのクイナさんが飛び出して来た。
怒っている口調なのに、顔は笑っている。
クイナさんはいつも笑っている。
怒っている時も悲しんでいる時も。
同じ無表情でも僕とは決定的に違う。
彼女には感情があるけれど、僕には無い。
まあ、それだけと言われてはそれまでだけど。
「貴方達が戦ったらこの家が消し飛びます。夕飯抜きですよ?」
クイナさんは笑顔のまま二人を叱りつける。
笑顔なのに、有無を言わせぬ迫力があるところは流石クイナさんってところかな。
僕がぼーっとその光景を眺めていると、クイナさんがくるりと僕の方を向く。
え、僕?
「あーもあーです。貴方にはその実力があるのだから止めてください」
クイナさんは明らかに怒っていた。
いや、だって傍観者ですから。
そう言おうとしてやめた。
クイナさんの顔に『文句言ったらブッコロス☆』と書かれていたような気がしたから。
勘だけはいいんだ、僕。
「とりあえずケイも夕飯は食べるんですね?」
クイナさんは溜息を吐きながらケイに向く。
ケイはうんと頷いた。
ルーの遊びは殺し合い。
ルーは人がどうやって出来ているのか知りたいんだ。
どこに血管があるのか。
どこに心臓があるのか。
別に思惑があるわけじゃない。
『知りたい』
その感情一つで、ルーは命だって簡単に奪ってみせる。
好奇心の塊なんだ、ルーは。
よく僕を誘うけれど、僕はいつも丁重に断っている。
殺し合いなんて、痛いだけだろ?
メリットなんて何もないし。
第一ルーに勝てる自信がないしね。
ルーは強い。
幸運体質であるケイだって、数学オリンピックで一位を取ったことのあるほど頭のいいクイナさんだって敵わない。
それほど体術が素晴らしい。
ルーに勝てる人がいたら面白いな。
それまで生きてみるのもいいかもね。
死んだって生きたって、どうでもいいけど。
いたっていなくってもどっちでもいいけど。
ま、楽しみはあったほうがいいんじゃないかな?