ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Aviz—オリキャラ募集— ( No.8 )
日時: 2011/03/05 00:16
名前: B.B (ID: gWH3Y7K0)

ヤマがロビー前の配布所まで向かうと、そこには自らが所属している部隊の隊員たちがすでに集まっていた。

「……少し遅れちまったかな?」

持ち前の楽天主義を遺憾なく発揮し、その様子を苦笑しながら見つめる彼。
——と、そんな彼に声が掛けられた。

「ヤマくん!」

半ば興奮した口調で呼んだ声に、ヤマは相手の顔を脳内に浮かべながらもあえて問うた。

「何方ですか」

相手は今度はヤマの前方へ回り込み、答えた。

「私ですよ! 私! 八木優子です!」

そのトレードマークである度の強い眼鏡と、迷彩服の上に羽織った白衣。
彼の予想は的中した。八木優子だ。
ヤマと彼女は訓練中に知り合い、親交を深めた仲である。
優子はそのまま強い口調で矢継ぎ早に言葉を連続発射した。

「凄いですよね! ついにあの迷宮の前まで来てるんですよー! くぅ〜感激です!」

「そ、そうだね。感激だね〜」

普段は真面目な彼女なのだが、こと興味を持つ事柄になると些か熱心になってしまうのだ。
ヤマは苦笑し、適当な相槌を打ちながらもその様子を見つめるしかない。

「未知との遭遇! 未発見の生物たち! あのインディ=ジョーンズもビックリです!」

まるで機関銃か何かの様に語りまくる彼女を落ち着ける良い方法が何か無いかと探る。
と、ヤマは副部隊長である小隊軍曹が近づいてくるのが見えた……

「と、おい、優子……軍曹のお通りだぞ」

これ幸いとばかりにそう耳打ちすると、優子は苦々しいと言った表情を浮かべて黙った。
やがて軍曹がこちらに近づいてくる。

「おい、ルーキー! そこで何を話してるんだ!」

少し意地悪い笑みを見せながら、プッシュハットを被り直している軍曹。
ヤマは曖昧に微苦笑しながら言った。

「あーっと。ちょっと迷宮——『アビズ』のことで少し」

軍曹は眉を顰めながらも一歩前へ出て。

「……いいか、ルーキー。心配することはない。お前はあのキツイ訓練を脱落せずに通過したんだ。今やヒヨッコじゃない。一人の兵士なんだからな」

ヤマの胸にドンと拳を押し付ける。

「大丈夫だ。生きて返してやる」

ニヤリと豪快な笑みを浮かべた軍曹は「早く装備を受領しろよ」とだけ言うと、振り返って人ごみに消えていった。

「はやー……カッコいいですね。まさしく歴戦の兵士といった感じです」

優子が少し呆然としながらも、そう感想を漏らす。
ヤマと言えば、普段のふざけた態度を一変させて拳の感触を確かめていた。

「優子。装備を取りに行こう」

「了解です」

二人は静かに配布所の列に並んだ。そう多くはない。
一人、二人、三人……と列がどんどん縮んでいき、ついにヤマの番となる。

配布所のカウンターには年を取った配給兵がいた。

「若いの。頑張れよ」

叱咤の声と共にカウンターの上で受け取るのはまず黒の弾薬ベスト。
それを受け取り、素早く身に付けると次はマガジンを引き抜いた自動小銃が渡される。

「FA-MASライフルだ。ブルパップ方式。訓練で扱っただろう?」

フランス陸軍の正式採用アサルトライフル。通称、トランペットをスリングを使って肩に掛ける。
そして防弾ヘルメットと軍用ゴーグルを渡され、次はベストに入れる弾薬や手榴弾。水筒や通信機。

こういった物を全て装着すると。

「よし。OKだ。次!」

ヤマはほっと一息を付くと、すぐ後ろに並んでいた優子を見やる。
彼女は戦闘訓練ではあまり良い成績を取っていなかったはずだが……

彼の心配は杞憂だった様で。彼女は手際よく装備を受け取り、身に纏っていた。

安心したヤマはすこし離れた所で隊列を組んでいる部隊員達の元へ向かうと、その列に紛れ込んだ。