ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 引き摺る靴と殺人本 ( No.2 )
- 日時: 2011/03/04 17:55
- 名前: 真由子 ◆NCebuCi9WY (ID: 87ywO7pe)
=第一章=
「ビニール傘」
窓の外に目を向けた。
雨は未だにちらちらと降っていたが、太陽も顔を出していた。
そしてお茶に付いてくるおまけのように虹がかかっている。
傘を差すほどに雨は降っていないが、差さなければ差さないで濡れる。
遊基は結局傘を差す事にした。
透明のビニール傘。
つまらない、と言ってしまえばそこで終わりだが、何故か愛着が沸いて捨てられない。
それに捨てるほどボロボロってわけでもないし。
遊基はグレーのパーカーを羽織り、顔を歪ませ緑色のきつくなったスニーカーを履いた。
雨は優しく降り続ける。
もうすぐ秋本番だからか、または夕方だからか、少し肌寒い。
遊基は花屋に立ち寄った。
2年位前に出来た近所の「花屋・レイン」。
まだ若い独身で忘れっぽい女店主は花の手入れをしていた。
遊基を見ると「いらっしゃい」と一瞬手を休めたが、また手入れをし始めた。
色とりどりの花を眺めながら水溜りの水を弱く蹴る。
水が靴に滲んで、底の方の色が替わった。
「百合を—・・・3本下さい」
手入れをしていた女店主は
「あいよ」
と不良のように答えると、専用の鋏で百合を丁寧に切りとる。
「お兄さんかい?」
女店主は少し躊躇ったようだが、遊基に訊いた。
遊基は首を縦に振った。
「新聞紙で包んでいいよね?」
と、遊基の返事も聞かずに新聞紙で3本の百合を包んだ。
「線香持った?燃やす物は?」
「持ってますよ。瑠奈さんじゃないんですから。」
遊基がそう答えると、女店主、瑠奈は顔を膨らませた。
代金を払い、店を出ようとしたら
「いってらっしゃい」
と、瑠奈に手を振られたので、遊基もいい顔をして振り返した。
濡れてぐちゃぐちゃになった墓前にしゃがみこみ、がさがさと百合を新聞紙の包みから取り出した。
ぬかるんだ土に足をとられそうになりながらも、無事花立に百合を入れた。
「兄ちゃん、どうだ?綺麗だろ?瑠奈さんくらいに。」
遊基がそうお世辞を言う中、墓はだまってそれを聞いていた。
「それと、ポッキーとか、いろいろ持ってきたんだ」
いかにも小学生らしい考えに天国の兄も呆れているだろう。
遊基はリュックから極細ポッキーと薄塩味のポテトチップスと兄が吸っていた煙草を取り出すと、墓にお供えした。
そして、持ってきた新聞紙に火をつけると、その火を線香に移した。
燃えた新聞紙に水をかける。
線香をあげると、遊基は顔の前で手を合わせ、目を閉じた。
顔を上げる。
ビニールの傘越しに虹が見えた。
「んじゃ、兄ちゃん。また来るよ」
そう墓に向けて笑った。
遊基はぬかるんだ地面の上を歩き出す。
ふと、兄の吸っていた煙草のにおいがした。
未成年だというのに、煙草を吸っていた兄がいるような気がして、遊基は振り向く。
しかし、兄はいない。
「じゃあな、兄ちゃん」
その場に居る筈も無い兄に向けて遊基は手を振った。
遊基はまたるかるんだ地面の上を歩き出した。