ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 引き摺る靴と殺人本 ( No.6 )
日時: 2011/03/05 11:38
名前: 真由子 ◆NCebuCi9WY (ID: 87ywO7pe)

    「巻きつく手」

最後に決め台詞を言って店を出た僕は、真っ直ぐと家に向かった。
靴に付いた泥も、既に乾いている。
父が建てたロッジ風の家はすぐそこだ。
が、何故か足が重い。
「!?」
遊基の靴に手が巻きついていた。
その手はアスファルトの中からにょっこり出ていて、なんとも気味が悪い。
手で靴に巻きついている手を解こうとしたがどうにも解けない。
遊基は仕方なく気味悪い手と一緒に足を引き摺った。
ザッ・・・・ザッ・・・・。
嫌な音を立てながら引き摺った。
手は未だ離れない。
「んだよ・・・何だって言うんだよ!何がしたい!お前は・・・!!」
怒鳴ったせいで荒い息が一分ほど続く。
巻きついた手は仕方なさそうに遊基の靴を放した。
内心ほっとしているが、恐怖という感情も残っている。
自縛霊?
だとしたら何があっただろう。
遊基は動く気をなくしてしまい、地面に座り込んだ。
遊基は考えているフリをしているだけで実際頭では何も考えていない。
声を掛けられたのは座り込んで5分も経たないうちだった。
「おーい!遊基ー?何してんだお前」
声の主は鈴木相馬。
遊基の親友でもある相馬と最後にあったのは一昨日。
普通の相馬だった。
相馬だけには変わらないで欲しい。
僕が狂ったら相馬は僕の事を助けてくれるのだろうか?
「遊基?」
と、ここで遊基は現実に戻された。
「えっ?あ・・・相馬!」
遊基は座りながらも答えた。
「お前顔色悪いけど大丈夫?」
ベタなストーリーのようになってしまうが、遊基は笑顔を作って「大丈夫」と答えた。
相馬はどこか抜けた表情で、「つーか何してんの?」とまた問いかける。
本当に僕は何をしてるんだ?と、遊基は初めて考えた。
「ひ・・・日向ぼっこ・・・?」
と遊基は無理な言い訳をした。
相馬は顔を少し歪ませ、ふーん、と何所かを見つめながら答えた。
遊基は立ち上がった。
もう足に手は巻きついていない。
そして、軽く足踏みをして玄関のドアを開けた。
サンダルの上で、きつくなったスニーカーを抜ぐ。
これにも一苦労する。
「おっ?これいい靴だな」
相馬はそういってその気に入った靴を手に取る。

その靴は・・・兄の遊走が最後に履いた靴———・・・。
事故現場に揃えて残されたあのスニーカーだった。