ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: BRACK・STORYS ( No.4 )
- 日時: 2011/05/12 16:42
- 名前: ACT ◆ixwmAarxJ2 (ID: 91b.B1tZ)
4
あれから3日後。
肇が机に向かってブツブツと呪文のように呟いている。
「五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い……」
あれからというもの、肇はどんな音でも気かかけるようになった。
最初は大きい音だった。工事の音、テレビの音、騒音と思うのは普通だ。だが、だんだんエスカレートし、妻が歩くスリッパの音、コーヒーを沸かす音、終いには波の音。どんな小さい音でも彼にとっては轟音に聞こえる。もうノイローゼと言ってもいいだろう。
ついに昨日、妻の陽菜は愛想を尽かし出て行ってしまった。
そしてこんな様だ。
しばらく呟いていたがこけた頬と大きなクマのできた目を上げた。
「そうだ、音のない場所に行けば……」
彼は携帯に手を伸ばし、耳に当てた。その相手は建築関係の仕事をしている知人だ。
「もしもし、師崎だが……」
数日後、都会のど真ん中にやってきた肇はとあるビルの中に入って行った。
「今日はありがとう。この部屋か?」
彼が知人に依頼したものとは、『完全なる音のない場所』だ。
今肇の目の前にある部屋は中の音が全て周りの壁に吸収され、完全な無音状態になるという。窓はなく、外部から完全に隔離されている。
「では集中するから1日後に呼んでくれ」
肇はその部屋に満足し、早速作曲に取り掛かる。邪魔する音が無くなり、楽譜の中にもオタマジャクシが泳ぎ始める。
——————だが、彼は気づいてしまった。
この部屋にも存在する音に。
音はしないが、癖であるボールペンを机に当てる行為をする。彼が苛立っている証拠だ。
彼はその音を消した。
完全なる無音にするべく……。
1日後、知人が部屋に入った。
彼は肇の姿を見て驚愕し、絶叫した。
——————左胸に深々とボールペンを突き刺し、息絶えた姿に。
END