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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 【短編】お題:指先の冷たさ【アンソロジー】 ( No.1 )
- 日時: 2011/03/05 21:39
- 名前: るりぃ ◆.VGogta6H. (ID: opLc/10u)
どくんどくんと、弱弱しく心臓が脈打つ音が聞こえる。
それすらもそのうち無くなってしまうのだろう。
ゆっくりと、だが確実に体温を失っていく彼の体。
白いシーツと監獄の囚人服を連想させるパジャマにぽたぽたと水滴が降り注ぎ、余計に彼の体を冷やしていた。
「死なないって、いったじゃん。負けないっていったじゃん。」
幼子のように彼に縋ってぼたぼたと涙を流すことしかできなかった。
喪いたくなくって失いたくなくってうしないたくなくって。
大切で大切すぎて愛しくて愛しすぎて好きで好きすぎて。
イチャつく事もしなければ、数日しか過ごしたことのなかった相手だった。
最初は唯、幼稚園が一緒だっただけなのだ。
いつのまにか電話をしあう仲になり本名を教えあうようになり、ついには会いだすようになった。
彼は赤松 正一。人間嫌いの私が初めて触れられたひとで、私の大切なひと。
……彼は、かなり酷いいじめにあっていた。
学校が違うので、その現場を目撃することはできなかったが、会うたびに見える切り傷や擦り傷や青痣を見ればそれがどんな辛いことか推測するのは容易だった。
耐えられなく、なったのだろう。
私もクラスメイトから無視されるといういじめにあっていた。
でも、彼と言う話し相手がいたから耐えられた。
やっぱり私では彼を癒しきる事なんてできなかったのだろう。
自分自身の無力さに腹が立つ。
ああ無機質な音が病室に響いた。
心拍数が消えていって、彼が冷たくなっていく。
いつも会うたびに傷のある私の手首を握っていてくれた彼の手を握ってみる。
いつもは暖かかった手が、指先が、冷たかった。
だから私今後追い自殺。
彼が望んでないことくらいはわかっている。
でも、私も耐えられなくなったのだ。
「ごめん。」
私の指先も、彼と同じように冷たかった。
FIN
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