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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 【短編】お題:指先の冷たさ【アンソロジー】 ( No.10 )
- 日時: 2011/03/06 16:59
- 名前: peach ◆3Z7vqi3PBI (ID: j553wc0m)
空は今日も青く存在していた。
暦上はもう春なのに、まだ現実では底冷えするような寒さが続いている。茶色の合皮の手袋と、黒いダッフルコートを着て、私は石畳を歩いていた。
去年はあったはずなのに、今は無いもの。
それはどれだけの数になるだろう。
今あるかどうか確かめた空も、もしかしたら今日の今、落ちてくるかも知れない。そうしたら、あの美麗に色を変える空間は、私の目で見ることはできなくなる。
「明日も俺はここにいるよ」
約束したって、指切りしたって、
そう言ったって、
叶える当の本人にその気がなかったら意味がないでしょう?
駅前でどこかで聞いたことのあるメロディを歌った音が聴こえてくる。明日になったら、この人はここにいないかも知れない。一生ここに来ないかもしれない。
「ねえ、嘘なんてつかないでよ。
一番嫌いって、言ってたでしょ。嘘つく人って。
だから。だからさ、また会ってよ。
また一緒にご飯食べよう?また遊ぼう?また歌おう?またいろんなことしよう?
……小指の赤い糸をたどったら、君に続いてるはずだから。
今、行くね」
重いバッグを持った手は、指先まで冷たくなっていた。
このまま寒くなるのなら、もう雪まで降ってしまえばいい。
上にある空だって、私の気持ちは分かってるはずでしょ?
終わり
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