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Re: 【短編】お題:指先の冷たさ【アンソロジー】 ( No.13 )
日時: 2011/03/08 16:02
名前: N2 (ID: 2de767LJ)

初めまして、N2(えぬのに)と言います。
素敵な企画ですね、駄文ですが参加させていただきます。


 
         素直じゃない


三月八日、火曜日。天気はくもり…あいにくの悪天候。
三月だというのに体を刺すような風の冷たさは一向に去りそうもない。
そんなどんよりとした日。気が重い委員会がある日だ。
生徒会役員の私は代表として会を進行したり、書類を運んだりと
大忙しな放課後を過ごした。
書類を職員室に運ぶ途中、丁度図書室の前を通りかかった。
明かりが消えている。—いつも一緒に下校している友達は
図書委員なのだが、もう会は終わって帰ってしまっているらしい。

(しょうがない、今日は一人で帰ろう)

書類を職員室に届け終え、ふと、廊下の窓から外を眺めた。
灰色の綿をしきつめた空。木々が首をかしげるような困った格好で風に揺られている。

(…寒そうだ)

そう心で独りごちて、スカートをひるがえし足早に自分の荷物を取りに生徒会室へと戻った。



仕事もようやく終わり、重い足取りで下駄箱へ向かう。
この1時間だけで1日分のエネルギーを使ったような気がした。
…大きな役割だったから、体力的にも精神的にも疲れたのだろう。
ほとんどの生徒が下校したようで、いつも賑やかな玄関には
風が駆け抜ける音だけ。
私は一人でゆっくりと靴を履き、マフラーを念入りに巻いた。

玄関から出ると、予想通り—というか予想以上に寒かった。
さっきまで暖房の効いた部屋にいたから余計だ。
帰るのが億劫おっくうだ、と顔を顰めた(しかめた)とき、

「お、来た来た」

玄関の物陰に持たれている…あいつがいた。
あいつとは小学校からの幼馴染。ご近所さんだから尚更だ。
今日の空とは対照的な笑顔でこちらを見ている。

「何やってんの?こんなところで」

私はあいつに変な物を見るような視線で問いかけた。
あいつを見たのは高校に入ってから随分と久しぶりだ。
いつもなら男友達ととっくに帰っているであろう時間。何の用事だろうか。

「いや、委員会があってさ。さっき終わったばっかだけど
皆先に帰っちまった。んで、おまえが残ってたから、
久々に一緒に帰ってやろうと思っただけ。」

…えらく上から目線だ。
けれど、私も帰る友達がいない。
久々に昔話に花を咲かせるのも悪くないか。
よく考えると、あいつも委員会だったようだ。

「そういや、あんたって何の委員会だっけ?」

「何って…図書委員だよ、…仕事少ないから楽」

そう答えるとあいつはマフラーを口まで覆った。
あいつも寒いらしい。



…図書委員?
図書委員なら結構前に委員会が終わってたような。


考え事にふけっていると、急に手を掴まれた。

「何ぼけっとしてんだよ、とっとと帰るぞー」

あいつは私の手を掴んで歩き出した。あいつの手は凍えっきっていた。
例えるなら、かき氷の中に素手を突っ込んだ感じ。


(こんなになるまで、私を待っててくれたのか)



「…何ニヤついてんだよ、気持ち悪いな」

あいつは私の顔を覗き込んで苦笑いして見せた。
私は頬が緩んでしまっているらしい。
…無理もない、素直じゃないあいつが悪い。

「…ありがと、ね」



寒空の下、氷のような〝不器用〟な冷たさのあいつの指先。
私が〝嬉しい〟の暖かさで、その氷が水になるまで、にぎっていよう。