ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 【短編】お題:指先の冷たさ【アンソロジー】 ( No.4 )
日時: 2011/03/06 00:55
名前: 深山羊 (ID: DZWfhZUD)



 くすくすと笑う声が薄暗い部屋から聞こえる。
「どうしてかな?」
 道化の様に男は問いかけた。
 しかし、問いかけられた方は一言も発しない。
 カタカタと音がしてから問いかけられたモノは動きを見せた。
「それはね、私がね———」
 言いかけた時、男はそれに重ねるように叫んだ。
「それはね、言っちゃいけない」
 矛盾している行動に問いかけられた方は呆れを見せるように動きを止める。
「つまらない、つまらないわ」
 ぎこちない動き、伸びる指先が男の頬に触れた。
「ああ、どうしてかな、君の指先はこんなにも冷たいのだろうか」
 男の涙で問いかけられたモノの指先が熱を持つ。
 それは一瞬とはいえ確かに冷たさではない感覚に触れた瞬間。
 涙はとめどなく流れ始めた。
 ああ、どうして、どうして君は君なんだ、どうしてっ……。
 どうしてっ!
「私は、私は、貴方の人形よ」
 幻想は崩れ落ち、現実が現われた。
 だが
 男は依然一人、人形遊びをやめはしない、狂ったように。
 異常な恋は実らない。
 愛せば愛すだけ恋しくなる。
 欲するのは冷たい手。
 望むのは君の声。
 男は人形に恋をした。
 触れるお互いの手は氷のように冷たいまま。
 指先の冷たさは心には浸みていかない。
 男の心は変わらない。
 今日も君と踊ろうか、終わらぬ夢を見る為に。


『恋される人形、恋する肉塊』
       終幕

Re: 【短編】お題:指先の冷たさ【アンソロジー】 ( No.5 )
日時: 2011/03/06 12:22
名前: 神村 ◆qtpXpI6DgM (ID: 5Yz4IUWQ)

面白そうだったので投稿します。スレ主さん、応援します。


『冷たい指先は温かかった』


 周りは一面の銀世界。雪で包まれたそこから隠れるように洞窟に身を潜めた。外は吹雪で閉ざされ白以外の色が存在しない。

 冷たく、凍えたその手の感触はとても生きている気がしなくって僕は必死に腕の中にいる彼女を抱きしめ手を握る。少しでも熱が宿るようにと。

「ごめん、ごめんね」

 微動だにしない彼女に呟くように謝罪した。繰り返し、繰り返し。彼女は死んでしまったのではないかという程に反応がない。わずかに聞こえる呼吸音が僕に安堵と焦燥を与える。

「ねぇ、起きて。起きてくれよ。お願いだからッ」

 起きなかったらどうしようと僕は青ざめる。この口からこぼれる懇願の言葉は縋るように頼りない。自分が寒いとかそんな事は感じなかった。彼女が失われるという喪失感への畏れの方が強い。この目に浮かぶ涙がより一層畏れを強め、堪らず彼女を強く抱きしめる。

「……ッぅぁ」

 うめく様な彼女の声にハッとなる。ぼんやりと起きた彼女は消えてしまいそうな声で僕の名を囁く。僕は彼女の声を聞き逃すまいと耳を澄ます。

「よかっ……た。ぶじ……だったんだね」

 心の底からの嬉しそうな声に僕は泣きそうになった。それはこっちの台詞だと言いたかったけど、この口から漏れる嗚咽で出来なかった。

「ああ……。ねぇ……帰ったら……雪だるま、作ろうね」

 危機的状況にいるとは思えない台詞を言う彼女に僕は自然と笑みが浮かぶ。なんというか彼女らしい。

「うん。……うん。作ろう。一緒に」

「うん」

 彼女はふわりと微笑み、僕の頬に右手を伸ばす。知らず流れていた僕の涙を彼女の右手が拭う。

 僕の頬に触れた指先はとても冷たかったけど、

 それでもとても温かかった。

Re: 【短編】お題:指先の冷たさ【アンソロジー】 ( No.6 )
日時: 2011/03/06 13:19
名前: るりぃ ◆wh4261y8c6 (ID: SHYi7mZj)
参照: トリップ変更しました

>>2
私の目指した短編がかけていたようで満足です。
重いのしかかけないので。すいませんでした。
こちらこそ、投稿の場を作っていただきありがとうございました。

Re: 【短編】お題:指先の冷たさ【アンソロジー】 ( No.7 )
日時: 2011/03/06 15:16
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 9nPJoUDa)
参照: どっこいしょういち。書かせて貰いますよ〜




    -Recall-


 乾いた銃声。ぱん、というその音はまるで自分の心を擬音化させているような気がしてならない。


「————ッは」


バラバラの間隔で吐き出される荒い吐息は白い。吐いている自分だけでなく、其れを見る人も音を聞かなくても呼吸が荒いというのが分かるくらい、白い靄のようなそれははっきりとしていた。……如何やら相当ガタが来ているようだ。

 重い躰を起こしあげ、青年は血まみれの右手で額の汗を拭った。拭われた汗の代わりに手についていた赤黒い液体が付着する。そのままの流れで、今度は袖口で口元をふき取る。唇についた血が白い袖口を小さく染めた。


 ————自分が如何してこんな行動に及んだのか理解できない。今は、感情に一直線過ぎた自分のことが可笑しくて仕方が無い。哂いたければ哂うが良いさ、自分よ。さあ、嘲笑すれば良い。大声を上げて哂ってくれてもいいさ。この行動に走った自分を見ているのは、分裂した自分という人格な気がしてならない。……鬱病と言うのも、自分を否定するあまりに分裂して出来上がった人格が、元の自分を非難するから起こるというような話をどこかで聞いた気がした。——ああ、フロイトの本だっただろうか。


「おかしいなあ」

ふと見上げた空はいつの間にか、何時雨が降ってもおかしくないくらいの曇天になっていた。先程までは清々しいほど乾ききっていた青空など何処にもない。曇った空はじめじめとした空気を生み出して、周囲を包み込んでいる。————ただ一人、自分を除いては。


 何故か、自分の中は乾ききっている。
 どうしてか、周囲はこんなにじめじめとしているのに、自分の心はからからに乾いている。



 ビルの物陰から、人影らしきものが見えた。それが敵か味方かと判別する前に青年は左手に持っていた拳銃の引き金を躊躇なく引く。少し前までは重く、固かった筈の引き金が今は羽の様に軽い。鉄の塊の様だった引き金がそうなったのは分からないのだが、其れは自分自身を捨ててしまっただろうか。最早自分は嘗ての自分とは違うのだ。もう、あの頃の自分はこの世に居ない。



『手が温かい人は心が冷たいっていうけど、そんなことないよ。
私は、キミのこの手のぬくもりが大好き。キミは全てが温かい人だって、分かるんだもん』


 ぱん。引き金を引いて、弾丸を発射させ、人影の頭を撃ちぬいてやる。それと同時に"彼女"の言葉が頭に蘇った。————大丈夫、もうすぐ。もうすぐだから。もうすぐ、キミのところに行ける。

どさりと重い何かが倒れる音を聴いて、青年は標的の命が消え去ったことを認識した。最初はなんだかんだ言って不快に感じていたこの火を消したような感触はいつの間にか気持ちの良いものに変わっていってしまっている気がする。それはきっと人間性を失っていっているからなのだろう。




 ——雨が降り始めたようだ。


 冷たい雨粒が自分に降りかかるのが分かる。その身に掛かっていた血液が少しずつ流れて行くのが分かった。足元には、水に洗い流された血液が貯まっていた。それ程はっきりしたものではないのだが、アスファルトに弾(はじ)かれて貯まっているそれは光に反射して、妙にきらきらと綺麗に見えるのだ。



 ——キミを犯して、殺してしまった奴らに対する復讐。


最初はそのつもりだった筈だ。なのに、気付けば彼女に関係のないものまで殺していっている気がする。快楽殺人とは怖いものだ。"人を殺すことが目的"という恐ろしい化け物を生み出してしまう。




『躰中で感じられるの。キミの温かさ。それが嬉しくって、嬉しくって。いつまでもこうしていられるといいよね』

後ろからした足音に向かって銃を撃つ。「う"っ」という呻き声とまた倒れこむ音がした。それと同時に、また"彼女"の声が聞こえた。青年は自嘲染みた笑みを浮かべる。右手を、銃を持つ左手に当ててみる。……冷たい。



『私をなぞってくれる、このほっそい指はとっても温かいの。冷え切った私の躰に触れてくれるその指は、どんな暖房器具よりも私を温めてくれるのよ』
そんな言葉を思い出した青年は指先の温度を確かめてみた。……やはり冷たい。

————引き金を引くこの指は、冷たい。
————キミに触れていた頃の指の温もりなんて、もう、無い。
————もう、キミが知っている"モノ"では無い。


躰がびしょ濡れになっているが、心はからからに乾いている。全くの対極的な物に本当哂いが漏れてしまう。

 青年はその場に屈み込んだ。同時に持っていた銀の拳銃を地面に落とす。少しだけ重い音が鳴り響いた。もう、これ以上歩いたりする気力が無いようだ。……心も、躰も、ぼろぼろになっている。彼女を辱めた奴らを殺して、自分も死のう。——弔いとか、もうそういうレベルでは無いのかもしれない。ただ単に自分の中にある空虚なものを埋めるための行動に変わっているのだろう。





 意識が他に行ったその時に。


 重い銃声が、青年の胸を貫いた。




「———あッ……?」




唐突過ぎて何が何だか分かっていない。取り敢えず、手を左胸に当ててやる。温かい液体が漏れ出ていることが分かった。

 遠くで「やった、撃ったぞ」という歓喜の声が聞こえた。……それに構うようなコトをするつもりなど青年の中には全くない。徐々に青年の視界が霞んでいき、躰が倒れて行く。耳も遠のいていく————。




————っはは。


やられちゃったよ。



 どさり、と躰が濡れたアスファルトに倒れた。水しぶきが飛ぶ。胸元にぽっかりと空いた穴から出てくるのは、深紅の液体。水にと紛れて、濃度が薄まっているのだろうな、と青年は思った。

 ——死ぬのは本望なのだ。
 ——これでもう、やっとキミの元に逝ける。


 躰を打つ雨がだんだんと体温を奪っていくのが分かった。もう一度青年は自分の手を触ってみる。やはり冷たいな、と。






「やっと、こっちに来るね」


青年の耳に聞き覚えのある声が入った。ハッとしてゆっくりと顔を上げる。見上げると、見覚えのある"彼女"が青年を見つめていた。黄色い傘をさして、それに青年を入れてやっていた。——艶やかな長い黒髪と太陽の様な笑みを此方に向けて。


「————そうだ、ね」

青年は喉から声を絞り出した。酷く弱弱しい声だったが女性はそれを確かに聞き取ったようだ。


 青年の冷たい指に女性の手が触れる。女性の手の温もりが、冷たく冷え切った青年の手を包み込んだ。


「おかえり」


女性はにこりと微笑んだ。



「…………ただいま」


青年は静かに目を閉じる。





 ————彼の指先の冷たさは、いつの間にか温かいものに戻っていた。



-Fin-

Re: 【短編】お題:指先の冷たさ【アンソロジー】 ( No.8 )
日時: 2011/03/06 14:58
名前: ヴィオラ (ID: 6PSxBKjg)



       『望まれない』


私の親友は・・・私と同じ軍隊で能力も私より凄く強かったです
名前は確か・・・『陽炎』
でも・・・いなくなってしまいました、誰も本当のことなんか言ってはくれなかったけれども
私は親友が『イナクナッテシマッタ』ことがすぐに分かって、涙が止まりませんでした。

私は軍隊でも医療のほうにいることが多くて武器を行使して攻撃をすることはあまりありませんでした
あったといえばあったのですが・・・自分が誰かの足を引っ張っているような感じでした、目の前で何人もの人が・・・この世から消えていくのを見ていた私は医療部の手術室で消えていく人間を何度も見ているので慣れという物を感じていたはずなのです

ちょうど晴れていて空もとてもきれいなときに親友は任務に行こうとしていました
それを私は手を振ることしか出来なくて・・・
最後にした会話はその任務の一日前くらいにしただろうか、私はきれいな空の写真と自分の家族の写真をベッドに置いた親友の隣でテレビを見ていました


「『春風』、私がもしいなくなっても
              『春風』は生きるんだよ。
 みんなを置いて行っちゃうことをしたら、最悪だよ!それは最低だよ」

「・・・え?あ、うん。分かった、でも・・・『陽炎』さんがそんなこと言うとはね^^」

「え?あ、そうだね。確かに私もこんな暗いこと言うとは思わなかった」


二人でそのうち笑いあって、ツッコまれたりとか色々しながら休憩時間ギリギリまでずっと陽炎さんの部屋にいました
そのうち陽炎さんの任務演習時間が近づいてきてから私も医療部の会議があるので部屋から同時に出て行きました
その時のさよならは・・・最期のさよならになるとは思っていなかった。

医療部の『遺体安置室』にひっそりと私によって運ばれた陽炎さんという友達の手にそっと触れてみました

—はじめて、てをつないでくれた人なのに
            その手は・・・指はとても冷たかった

それに私はパッと手を離してから弱弱しく青くなってしまった腕がパンッという音と共に降ろされたのを見ました
冷たい風が吹いています、もうすぐ冬らしいです


「陽炎さん・・・

貴方と笑いあったり、泣きあったり、喧嘩しちゃったり、友達じゃなくなりそうになっちゃったり、貴方にいじわるされちゃってショックになっちゃったり・・・

色々あったのに、その記憶が・・・遠い日の記憶のようになりそうです

約束します、私・・・ちゃんと生きるから。
必ず、この世界を平和な世界にしてあげるから。」

ギュウッとつめたい手を温めるように両手で掴んだ時でした
少しぬくもりのようなものを感じました、じっと私はそこにいました
そして・・・うめき声のようなものが聞こえてから私はハッとしました


「・・・陽炎!陽炎さん!」

「・・・春風・・・約束、だよ・・・私・・・もう会えないかも・・・しれないけど・・・ちゃんと・・・見てるからね」

その言葉と共に陽炎さんの手は冷たくなりました
涙が止まりませんでした、私はまだ一人にならないんだと思って涙があふれ出てきました

その約束を裏切らないように私は今を生きています、部屋に張り付いている陽炎をポンとベランダから放してあげると私はベランダから見える青く・・・お別れのような空を見上げました
たとえ、親友がいなくなったとしても私は・・・後を追って消えてしまうようなことはしないという約束と世界を平和にする約束を果たしたい

いまでも陽炎さんをなくしてしまったときの私のような気持ちになっている人は何人もいるということを知っているから、
冷たい指先を・・・知っている人がたくさんいるから・・・


「・・・ちゃんと、約束・・・守るからね。」


                             終わり

Re: 【短編】お題:指先の冷たさ【アンソロジー】 ( No.9 )
日時: 2011/03/06 15:44
名前: 黒鳩 ◆k3Y7e.TYRs (ID: Y8BZzrzX)





はじめまして。ボクも少し短編に挑戦したかったので、挑戦してみます。別にグロイわけでもないです。



   『さよなら、とか言わないよ』



寒い雪空の下、俺は一人の女の子を待っていた。

手袋のしない手は、とても冷たくなっているのは分かる。

多分、来てくれないだろうな…。

雪が降る夜空を見上げる。

今の俺には、寒さとか、指先の冷たさとか、どうでもいい。

ただ、あの子が来てくれる事を祈るだけだ。

…いや。それすら、俺には資格なんてない。

昨日の帰る前に、彼女に俺は会った。

今までずっと俺の方から避けていた。

彼女も俺を避けていた。

出来れば会いたくなかった。

原因は俺にある。

親友である彼女に、大切なことを隠していた。

この街から、引っ越してしまうことを。

遠い場所に行ってしまうと。

その知らせに彼女がいつ気付いたか知らない。

だが、昨日の帰り際、彼女は俺を捕まえて校舎裏につれていき。

こういった。

「あんた、本当にいなくなるの?答えろ!」

命令口調なのが彼女らしい。

「……ああ」

俺は目線を泳がせて答える。

「ふざけんな!何で私に何も言わなかったんだよ!」

彼女は烈火の如く怒り始めた。

「言ってところで何になるんだよ!」

俺も怒りに火がついて、そのまま口喧嘩になった。

「うっさい!何で!何でだよ!」

「お前にだって言えるわけねえだろ!付き合い長いんだから!」

「だったら真っ先に言えこの馬鹿!」

「…っ。そうだよ、俺は大馬鹿だ。お前に何にも言わなかったんだから」

「…?」

彼女は半分涙目で俺を睨む。

「…だったら言ってやるよ。明日の夜、駅に親が迎えにくる。それであっちに行く。ここにいるのだって親に無理言っているんだ」

「…そんな、急なの?」

彼女の声は萎んでいた。

「……ああ。本当はお前に黙っていくつもりだった」

「……そうなんだ」

「ふざけてんだろ?」

「まったくね…」

こいつとは長い付き合いだが、こんな怒りを堪えているのは初めてみた。

「……あ、そう。だったら勝手に行けば!あんたなんか知らない!勝手に何処にでも行っちゃえ!」

「……」

彼女の怒りももっともだ。

だから、俺はこう残した。

「……悪かったな。多分、いくまで時間あると思う」

「だったら何!?」

彼女は噛み付く勢いで俺を睨む。

「別に。そんだけだ」

「……絶対見送りとか行かないから!あんたなんて親友でも何でもない!」

「……」

絶交と言われた。

だから、そのまま立ち去った。

彼女も走り去った。

そして、駅の前でベンチに座って親が来るのを待っている。

彼女はこないと、はんば諦めながら。

「ったく…父さん何してんだよ…約束と違うじゃねえの」

約束をもう二時間も過ぎている。

こっちは寒いし、そこまで防寒具を着ていない。

しかも頭は雪だらけ、手はポケットのない防寒具のせいで指先まですっかり冷えている。

「はあ…」

溜め息が出る。

この街とも、これでさよならだ。

「……おい」

その時、ありえない声が聞こえた。

「……?」

振り返っても誰もいない。

寒さのせいで幻聴か?

「…チッ」

舌打ちをして、頭の雪を払いながら立ち上がる。

自販機でなんか買おう。

財布は確か防寒具の下に着ている服に入っていたはず。

寒い手を突っ込み、財布を捜す。

「おい!私を無視すんな!」

ゲシッ!

突然、ケツに痛みが走った。

「わ!」

不意打ちに俺は真正面から雪に突っ込む!

「冷てええ!!」

雪から顔を上げて振り返る。

彼女がいた。

「……お前」

絶対来ないと言っていた彼女が。

この場で、俺を見下ろしている。

「…馬鹿。ああ言っても見送りくらい来るのが親友でしょ」

「……すまん。腰が抜けた。助けてくれ」

「はいはい」

彼女は何故か嬉しそうにしながら俺を手を掴む。

そして離した。

「冷たい。手袋とかは?」

「離すなよ!ねえから冷てえんだろ」

「ふぅん」

手ではなく、手首を持って助けてくれた。

「…で、見送りか」

「そうよ。一応、昨日はごめん」

「俺も悪かった」

「でも、あれはあんたが全部悪い!」

「自覚してるからもう言うな」

彼女は俺と一緒にベンチに座った。

「もうこっちには帰ってこないの?」

「しばらくは。だけど長期休みには帰ってくる」

「何だ。大げさね」

彼女は肩を竦めた。

「あ?」

「てっきりもう会えないとか思ったわ。————って何言わせてんのよあんたは!?」

「俺何もしてねえ!」

「アホ!」

「何で!?」

しばらくそれでじゃれあう。

「ほら、あんたケータイ貸して」

「はぁ?何で?」

「連絡着くようにする以外何があんの?」

「はいはい」

彼女にケータイを渡す。

「ったく…」

そのまましばらくいじり、返してもらう。

アドレスは登録しておいたらしい。

「…間に合わないかと思ったわ」

「は?」

「だからさ、ぶっちゃけ本音言うわ」

彼女は俺に向きかえり、言った。

「昨日喧嘩別れしたからさ。追い返されたらどうしようとか、悩んでたらこんな時間になっててさ。慌てて来たら本人にスルーされるし」

「あ、それは」

「いいから聞く」

彼女に遮られた。

「で、このまま言えずにいたら後悔するから、こうして慌てて来た訳」

「そうか。んで、何?内容」

「あんたさ、私と遠恋しよう」

「は?」

遠恋?

「私の恋人になれ」

「何故命令!?」

「拒否権がないから」

「おい!」

「いいでしょ?」

「いいですよ!」

「ならいいじゃない」

「そうですね!」

……告白されたんだよな?俺。

「ほら。手、繋いだらさ」

と俺の手を握る。

「指先まで温かくなるわよ」

と顔を赤くして続けた。

俺も。

「そうだな…」

と言った。

俺の冷たい手は、いつのまにか彼女の手で指先まで温かくなっていた。




Re: 【短編】お題:指先の冷たさ【アンソロジー】 ( No.10 )
日時: 2011/03/06 16:59
名前: peach ◆3Z7vqi3PBI (ID: j553wc0m)

空は今日も青く存在していた。

暦上はもう春なのに、まだ現実では底冷えするような寒さが続いている。茶色の合皮の手袋と、黒いダッフルコートを着て、私は石畳を歩いていた。
去年はあったはずなのに、今は無いもの。
それはどれだけの数になるだろう。

今あるかどうか確かめた空も、もしかしたら今日の今、落ちてくるかも知れない。そうしたら、あの美麗に色を変える空間は、私の目で見ることはできなくなる。


「明日も俺はここにいるよ」


約束したって、指切りしたって、
そう言ったって、

叶える当の本人にその気がなかったら意味がないでしょう?


駅前でどこかで聞いたことのあるメロディを歌った音が聴こえてくる。明日になったら、この人はここにいないかも知れない。一生ここに来ないかもしれない。


「ねえ、嘘なんてつかないでよ。
 一番嫌いって、言ってたでしょ。嘘つく人って。
 だから。だからさ、また会ってよ。
 また一緒にご飯食べよう?また遊ぼう?また歌おう?またいろんなことしよう?
 ……小指の赤い糸をたどったら、君に続いてるはずだから。
 今、行くね」


重いバッグを持った手は、指先まで冷たくなっていた。

このまま寒くなるのなら、もう雪まで降ってしまえばいい。


上にある空だって、私の気持ちは分かってるはずでしょ?




終わり