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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 【短編】お題:指先の冷たさ【アンソロジー】 ( No.5 )
- 日時: 2011/03/06 12:22
- 名前: 神村 ◆qtpXpI6DgM (ID: 5Yz4IUWQ)
面白そうだったので投稿します。スレ主さん、応援します。
『冷たい指先は温かかった』
周りは一面の銀世界。雪で包まれたそこから隠れるように洞窟に身を潜めた。外は吹雪で閉ざされ白以外の色が存在しない。
冷たく、凍えたその手の感触はとても生きている気がしなくって僕は必死に腕の中にいる彼女を抱きしめ手を握る。少しでも熱が宿るようにと。
「ごめん、ごめんね」
微動だにしない彼女に呟くように謝罪した。繰り返し、繰り返し。彼女は死んでしまったのではないかという程に反応がない。わずかに聞こえる呼吸音が僕に安堵と焦燥を与える。
「ねぇ、起きて。起きてくれよ。お願いだからッ」
起きなかったらどうしようと僕は青ざめる。この口からこぼれる懇願の言葉は縋るように頼りない。自分が寒いとかそんな事は感じなかった。彼女が失われるという喪失感への畏れの方が強い。この目に浮かぶ涙がより一層畏れを強め、堪らず彼女を強く抱きしめる。
「……ッぅぁ」
うめく様な彼女の声にハッとなる。ぼんやりと起きた彼女は消えてしまいそうな声で僕の名を囁く。僕は彼女の声を聞き逃すまいと耳を澄ます。
「よかっ……た。ぶじ……だったんだね」
心の底からの嬉しそうな声に僕は泣きそうになった。それはこっちの台詞だと言いたかったけど、この口から漏れる嗚咽で出来なかった。
「ああ……。ねぇ……帰ったら……雪だるま、作ろうね」
危機的状況にいるとは思えない台詞を言う彼女に僕は自然と笑みが浮かぶ。なんというか彼女らしい。
「うん。……うん。作ろう。一緒に」
「うん」
彼女はふわりと微笑み、僕の頬に右手を伸ばす。知らず流れていた僕の涙を彼女の右手が拭う。
僕の頬に触れた指先はとても冷たかったけど、
それでもとても温かかった。
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