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- Re: 【短編】お題:指先の冷たさ【アンソロジー】 ( No.9 )
- 日時: 2011/03/06 15:44
- 名前: 黒鳩 ◆k3Y7e.TYRs (ID: Y8BZzrzX)
はじめまして。ボクも少し短編に挑戦したかったので、挑戦してみます。別にグロイわけでもないです。
『さよなら、とか言わないよ』
寒い雪空の下、俺は一人の女の子を待っていた。
手袋のしない手は、とても冷たくなっているのは分かる。
多分、来てくれないだろうな…。
雪が降る夜空を見上げる。
今の俺には、寒さとか、指先の冷たさとか、どうでもいい。
ただ、あの子が来てくれる事を祈るだけだ。
…いや。それすら、俺には資格なんてない。
昨日の帰る前に、彼女に俺は会った。
今までずっと俺の方から避けていた。
彼女も俺を避けていた。
出来れば会いたくなかった。
原因は俺にある。
親友である彼女に、大切なことを隠していた。
この街から、引っ越してしまうことを。
遠い場所に行ってしまうと。
その知らせに彼女がいつ気付いたか知らない。
だが、昨日の帰り際、彼女は俺を捕まえて校舎裏につれていき。
こういった。
「あんた、本当にいなくなるの?答えろ!」
命令口調なのが彼女らしい。
「……ああ」
俺は目線を泳がせて答える。
「ふざけんな!何で私に何も言わなかったんだよ!」
彼女は烈火の如く怒り始めた。
「言ってところで何になるんだよ!」
俺も怒りに火がついて、そのまま口喧嘩になった。
「うっさい!何で!何でだよ!」
「お前にだって言えるわけねえだろ!付き合い長いんだから!」
「だったら真っ先に言えこの馬鹿!」
「…っ。そうだよ、俺は大馬鹿だ。お前に何にも言わなかったんだから」
「…?」
彼女は半分涙目で俺を睨む。
「…だったら言ってやるよ。明日の夜、駅に親が迎えにくる。それであっちに行く。ここにいるのだって親に無理言っているんだ」
「…そんな、急なの?」
彼女の声は萎んでいた。
「……ああ。本当はお前に黙っていくつもりだった」
「……そうなんだ」
「ふざけてんだろ?」
「まったくね…」
こいつとは長い付き合いだが、こんな怒りを堪えているのは初めてみた。
「……あ、そう。だったら勝手に行けば!あんたなんか知らない!勝手に何処にでも行っちゃえ!」
「……」
彼女の怒りももっともだ。
だから、俺はこう残した。
「……悪かったな。多分、いくまで時間あると思う」
「だったら何!?」
彼女は噛み付く勢いで俺を睨む。
「別に。そんだけだ」
「……絶対見送りとか行かないから!あんたなんて親友でも何でもない!」
「……」
絶交と言われた。
だから、そのまま立ち去った。
彼女も走り去った。
そして、駅の前でベンチに座って親が来るのを待っている。
彼女はこないと、はんば諦めながら。
「ったく…父さん何してんだよ…約束と違うじゃねえの」
約束をもう二時間も過ぎている。
こっちは寒いし、そこまで防寒具を着ていない。
しかも頭は雪だらけ、手はポケットのない防寒具のせいで指先まですっかり冷えている。
「はあ…」
溜め息が出る。
この街とも、これでさよならだ。
「……おい」
その時、ありえない声が聞こえた。
「……?」
振り返っても誰もいない。
寒さのせいで幻聴か?
「…チッ」
舌打ちをして、頭の雪を払いながら立ち上がる。
自販機でなんか買おう。
財布は確か防寒具の下に着ている服に入っていたはず。
寒い手を突っ込み、財布を捜す。
「おい!私を無視すんな!」
ゲシッ!
突然、ケツに痛みが走った。
「わ!」
不意打ちに俺は真正面から雪に突っ込む!
「冷てええ!!」
雪から顔を上げて振り返る。
彼女がいた。
「……お前」
絶対来ないと言っていた彼女が。
この場で、俺を見下ろしている。
「…馬鹿。ああ言っても見送りくらい来るのが親友でしょ」
「……すまん。腰が抜けた。助けてくれ」
「はいはい」
彼女は何故か嬉しそうにしながら俺を手を掴む。
そして離した。
「冷たい。手袋とかは?」
「離すなよ!ねえから冷てえんだろ」
「ふぅん」
手ではなく、手首を持って助けてくれた。
「…で、見送りか」
「そうよ。一応、昨日はごめん」
「俺も悪かった」
「でも、あれはあんたが全部悪い!」
「自覚してるからもう言うな」
彼女は俺と一緒にベンチに座った。
「もうこっちには帰ってこないの?」
「しばらくは。だけど長期休みには帰ってくる」
「何だ。大げさね」
彼女は肩を竦めた。
「あ?」
「てっきりもう会えないとか思ったわ。————って何言わせてんのよあんたは!?」
「俺何もしてねえ!」
「アホ!」
「何で!?」
しばらくそれでじゃれあう。
「ほら、あんたケータイ貸して」
「はぁ?何で?」
「連絡着くようにする以外何があんの?」
「はいはい」
彼女にケータイを渡す。
「ったく…」
そのまましばらくいじり、返してもらう。
アドレスは登録しておいたらしい。
「…間に合わないかと思ったわ」
「は?」
「だからさ、ぶっちゃけ本音言うわ」
彼女は俺に向きかえり、言った。
「昨日喧嘩別れしたからさ。追い返されたらどうしようとか、悩んでたらこんな時間になっててさ。慌てて来たら本人にスルーされるし」
「あ、それは」
「いいから聞く」
彼女に遮られた。
「で、このまま言えずにいたら後悔するから、こうして慌てて来た訳」
「そうか。んで、何?内容」
「あんたさ、私と遠恋しよう」
「は?」
遠恋?
「私の恋人になれ」
「何故命令!?」
「拒否権がないから」
「おい!」
「いいでしょ?」
「いいですよ!」
「ならいいじゃない」
「そうですね!」
……告白されたんだよな?俺。
「ほら。手、繋いだらさ」
と俺の手を握る。
「指先まで温かくなるわよ」
と顔を赤くして続けた。
俺も。
「そうだな…」
と言った。
俺の冷たい手は、いつのまにか彼女の手で指先まで温かくなっていた。