ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ワタシとアナタ。 1個up! ( No.6 )
- 日時: 2011/03/23 12:56
- 名前: 葵 (ID: GSWgO850)
次の日。
いつも愛美と会う筈の場所で待っていたのだが,結局愛美が来る事は無かった。
嗚呼,完全に遅刻だ。
もしかしたら,愛美は先に学校に向かってしまったのかも知れない。
愛美は私と違って,幽霊等に興味のある,“一般人”。
私は愛美しかいないけれど,愛美には他にも沢山友達はいる。
多分,友達に誘われたりしたのだろう…。
…にしても,遅刻したのに学校に行く必要性があるのだろうか。
其れに行った所で,どうせまた居眠りするのが目に見えているのに,行く必要も無い。
学校とは皆からすれば楽しい場所かも知れないが,私は愛美と一緒にいる時か,自分一人でいる時しか楽しいとは思えない。
…………休もう。
クルリと踵を返し,私は今まで通って来た道を逆に歩き出す。
家に帰った所で,親は既にいない。
多分朝早くから晩遅くまで仕事しているから会えないだけだろうが,別に構わない。
———空が,綺麗だ…。
何処までも蒼い,空。
此れが雲一つ無い青空の典型例なのだと,改めて感じる。
向こう側から,見知らぬおばさんが二人で何かを深刻そうに話しながらやって来る。
私を見て,サボッたのだと気付いたおばさん達は眉を潜めたが,直ぐに話題を戻し,先程までの深刻そうな表情に戻す。
「怖いわねぇ……また出たらしいわよ,“心臓狩り”」
「最近此処らじゃ其の噂で持ちきりよぉ。そう言えば,さっきも此処に来るまでに,警察がいたのよ! また被害が出たみたいでねぇ…。若い女の子ですって。可愛らしい女の子だったんだけど…名前が,確か…葛西さんだったかしら…?」
おばさんの横を素通りする寸前に,愛美の名前が出た。
私は振り返り,おばさんの方に勢い良く詰め寄り,問いただす。
「おばさん,今…葛西って」
おばさんは怖さの余りか,声を出すのを止めて,首を縦に何回も振る。
呆然とするおばさん達に場所を聞き,お礼だけを手短に述べ,私は急いで走り出す。
嘘,嘘だ…。
誰か愛美じゃないと,嘘だと言って。
愛美…愛美!
辿り着いた場所では,忙しなく警察達が働き回っていた。
私は其の前にいる野次馬を押しのけて,一番前の列に出る。
黄色いテープが邪魔で,私はテープを飛び越えて殺された少女の場所まで急ぐ。
が,警察に腕を羽交い締めにされ,身動きが取れなくなる。
「は,なせッ! 離せぇッ! 友達かも…友達かも知れないんだ!」
力ずくで何とか警察の羽交い締めから逃れるものの,目の前を通ったのは,担架で運ばれて行く,死体。
顔は見えない様に隠されていたのだけれど,私には分かった。
腕に付いている,ミサンガ。
あれは愛美が自分で作った物らしくて,いつか私にも作ってあげるのだと愛美は嬉しそうに言っていた。
…嘘,でしょう?
ダラリとした四肢。
あれは明らかに,愛美の物だった。
私は膝から崩れ落ち,地面に膝を付いた。
腕がブルブルと…怒りの為なのか悲しみの為なのか分からないけれど,震えが止まらない。
…守ると…。
貴女を守ると,約束したのに…。
昨日の朝までは,普通に一緒にいたのに…。
どうして。
どうして愛美でなくちゃならなかったの?
「い…嫌…嫌だ…ッ」
愛美を乗せた担架が,救急車で運ばれて行く。
多分もう…愛美が生き返る事は無い。
だって,心臓が…もう…無いんだから…。
___ねぇ,雛菊? 私ね…雛菊と一緒にいる時間が,一番好き___
___私も___
「…嫌だよ…嫌だよ…」
一人にしないで。
私を…一人にしないでよ,愛美。
「愛美…愛美…」
嗚呼…酷い顔をしているかも。
けど,今となってはどうだって良い話だ。
…やはり涙は出ないのだけれど………愛美,私…貴女の事は絶対に忘れない。
不意に,後ろの方から誰かに頭を撫でられ,私はゆっくりと振り返る。
…そこそこイケメンな警察が,私の後ろに立っていた。
「…君の気持ちは,分かるから。警察に任せて…君はゆっくり休んでれば良いと思う……」
「…気持ちは嬉しいのだけれど,頭を撫でる必要は無い。貴方は,ロリコン?」
「なっ…失礼な! 一応ロリコンでは無いけれど…署まで同行願いたい。昨日の葛西 愛美の行動を探りたい」
テレビで見た事のある,署まで同行願いたいの一言。
まさか其れを実際に体験する羽目になるなんて,私は全く想像だにしていなかった。
にしても,此の警察はなんだか変な奴な気がする。
他の奴等とはまた違う………まだ新米だからだろうか?
新米には初々しさが残っている物だから,其処が他の警察と違う所だろうか。
私如きに此処まで手間取るとは。
逃げようと思えばいつでも逃げられそうな位,此の警官…鈍い。
「君の,名前は?」
不意に声を掛けられ,驚きの余り体が跳ねた。
少々どもってしまったが,私は静かに答える。
表側から別の警官がパトカーの扉を閉め,彼は運転席に乗る。
「蒼然…蒼然 雛菊だ。貴方は?」
「俺は,深夜 秀一。こう見えても一応は警察…」
こう見えても,という所からして,どうやら少し行動が鈍い事は気にしているらしい。
まぁ別に私には関係無い。
どうせ,彼とも直ぐに縁が切れるだろう。
警察達と縁が切れれば,私はいつも通りの生活に戻る事が出来る。
………もう愛美はいないけれど,いつも通りの生活に…。
———戻れる…のだろうか?
愛美のいない生活で,元通りの生活を送れるのか?
また私は見て見ぬ振りを続けて,他の犠牲者が出るのを見ているだけにするつもりなのか?
愛美を殺したのも,多分此の間学校内で接触を図ってきたあの幽霊に違いない。
だが,警察に幽霊等と非科学的な事を言った所で,相手にされないのはほぼ確実だろう。
除霊等の類が一切出来ない私が,幽霊と戦う事など…出来る筈が無い。
愛美の仇を取りたいとは考える物の,どうやら私は行動に移す事が苦手らしい。
「あの…さ…」
いきなり,彼が口を開く。
「君は……幽霊とか,非科学的な事とか,信じる?」
唐突過ぎる質問に,私は何も答えられない。
信じないよね,と彼は苦笑いを溢し,運転に専念する為か,前を向き直す。
「君は信じないかも知れないけれど,俺はいると思ってる」
其の言葉に,私は只頷く事しか出来なかった。