ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re:       ワタシとアナタ。 ( No.8 )
日時: 2011/03/09 21:50
名前: 葵 ◆ufwYWRNgSQ (ID: LR1GMCO/)

其の日は結局,細かな事は話し合わずに終わった。
メアドをお互いに交換し,近い内にまた会う事を堅く約束して。
早く戻らなければ,偉い人に怒られるのだと,深夜さんは呟いていた。
深夜さんの怒られている図が安易に想像出来る。
あの人,優しそうだけど頼りにはならなさそうだ。


「愛美…私,貴女の仇を取る。そして,皆が安心して暮らせる様にするから」


ずっと前に愛美と撮りに行ったプリクラを見ながら,私は呟いた。
愛美だけが笑ってて,私は無表情のプリクラ。
余り良い思い出では無かったが,次また撮りに行こうと約束した。
プリクラの中の愛美が,とても幸せそうに見えたのは,私の気のせいだったのだろうか?


———————————


次の日には,愛美のお通夜が行われた。
写真の中の愛美は笑っていて…少し私には眩しい位だった。
愛美の棺の前で静かに手を合わし,黙祷する。
愛美のお母さんの目の下は赤く腫れ上がっていて,更には鼻も赤い。
先程まで泣いていた事を物語る。

ごめんね,愛美。
泣けない私を怒らないでね。
貴女の仇を討ってから…泣きたくなったら,泣くから。

よく見てみると,彼方此方に警察がいる。
愛美が“心臓狩り”によって殺された,被害者だからだろう。
お通夜の終わり頃には恐らく,警察による通達がある筈だ。
夜中に道を出歩くな,と。
辺りを見回すが,深夜さんはいない。


「あの」


一番近くにいた警察に向かって声を掛けると,警察は少し怪訝そうな顔をした。
其れに動じずに,私は話を続ける。


「深夜 秀一という警察を知りませんか?」

「…お嬢さん,アンタ彼奴の知り合いか?」

「はい。一応は」


其の言葉に警察は眉を潜める。

どうやら,深夜さんは本当に警察内では厄介者扱いされている様だ。
だが,曲がりなりにも深夜さんも警察なのだから,一応役には立つだろう。
頭の回転は悪そうだが,其処は私がカバーすれば良い。
多分警察なのだから,一通りの武術は出来る筈。


「彼奴は警察に向いてない。正直,綺麗事ばかりを並べる奴さ。人を殺したく無いからと,銃さえ持たない。警察はそういう事が仕方無い物なのによ…」


ブツブツと小言を漏らす警察を放置し,私は其の場を後にした。

涙の匂いがする彼処は,苦手だ。
私は泣けないのに,皆が泣けるのが,羨ましく感じる。

…でも,良かった。
深夜さんが,普通の警察と違う人で。
心の底から,此の街を平和にしたいと考えている人で。
あんな,下衆みたいな奴等じゃなくて。





不意に,後ろから車がやって来た。
クラクションを鳴らされたから横に避けるが,まだ鳴らし続ける車に苛々が募り,私は振り返る。
見慣れない車に乗っていたのは,深夜さんだった。


「ごめんなさい! 仕事が中々終わらなくて…。メールしたんですが,そう言えばお通夜だと言う事に気付きました」

「別に良いですよ。携帯……嗚呼,圏外でした,すいません。……なんか,変な感じじゃないですか? 一応深夜さんの方が年上なんですし,敬語を使う必要は無いですよ」


車の助手席の扉を開き,中に入りながら言う。
深夜さんは,はははと笑いを溢す。


「俺の周りには,俺にキツく当たる奴等ばっかだったから…嬉しい。新鮮な感じすんな〜」

「私的に今の方が良いと思います。……余り,深く考える必要はありません。深夜さんがおかしいのでは無く,銃を持ち慣れてしまった,彼方の方がおかしいのですから。銃とは,簡単に人間の命を奪える物。だから怖いのです。其れを持っているからと,力に頼るのは間違っていると思います」

「やっぱ,雛菊ちゃんで良かったなぁって今更思った。…ありがとうな」


少しだけ照れ臭そうに,深夜さんは笑った。

武器などと言う,哀れな物を持つ人間の末路は,凄惨な物だ。
人を守る為に作られた筈の物が,少しずつ人を殺す為の物に変わっている。
武器を持ったからと力を振り翳し,簡単に命を奪う奴等。
腐っていると,いつも思う。
けれど,いつも私は巻き込まれたく無いが故に,知らんぷりを続けていた。







___もう,あの頃の私じゃない。