ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re:       ワタシとアナタ。 ( No.9 )
日時: 2011/03/12 15:08
名前: 葵 ◆ufwYWRNgSQ (ID: LR1GMCO/)

「で,雛菊ちゃんに策はある? 俺は無策…」

「勿論考えて来ましたよ。以前其の…“心臓狩り”の犯人には接触されましたから。“心臓狩り”の犯人は———」





「ちょ,雛菊ちゃんストップ!」


話の途中,深夜さんは車を止めてまで,私の前に手を出した。
深夜さんは頭を抱え,ちょっと待ってね…と呟く。


「つ,つまり,雛菊ちゃんは犯人に会った……って事?」

「はい。学校にいた時に,向こうから来たんです。少女の声でしたから,多分目撃情報は間違っていないと思いますよ」


先程渡された書類に目を通しながら,私は言う。
書類をパラパラと捲って行く途中,気になるページを見付けたから,戻った。

綺麗な茶髪に,白い服を纏っている少女。
声は高めで,顔は不明。
身長は低め。
___目撃情報より。


「………にしても,目撃情報って…変ですよね」

「ん? どうして?」

「幽霊ならば,姿を消せるんじゃないんですか? 意外に幽霊って,不憫なんですかね…」

「確かに…。そうしなければならない事情があった? ……いや,自らの存在に気付いて欲しかった…?」


考え込む深夜さん。

茶髪に,白い服の少女。
覚えが無いと言えば嘘になるけど……うっすらとしか覚えていない為,よく分からない。
…断言も,出来ない。

ズキリと頭が痛み,思わず頭を押さえる。
深夜さんが不安そうに,私の顔を覗き込んで来た。


「大丈夫?」

「………大丈夫じゃないと言った所で,何ともならないでしょう。其れにもう…平気ですよ」


心配を掛けさせる訳にはいかない。
どうせ,深夜さんとは此れきりの関係なのだから,余り親しくならない方が良い。
じゃなきゃ…離れた時に寂しくなる。
だからもう深追いしない様にと…前に決めた。
苦しくなるのは私で…深夜さんじゃない。

覗き込んで来た深夜さんの顔を,グッと押し戻す。
深夜さんは苦笑いを溢し,先程までの話に戻した。


「結局,雛菊ちゃんは犯人と接触した訳かな?」

「はい。顔とか…姿とかは見ていませんが,声だけは」

「何かを言いに来たんだよね? 犯人の言い分は?」

「………よく,分かりません。聞き取れない程か細い声で…でも,余り此の事件に関わるな,と」


深夜さんは目を丸くさせる。


「君にだけ? 何故君にだけ,そんな事を……?」

「分かりません」


……嘘では無い。
今の私に,“心臓狩り”の正体は分からない。
其れに……“心臓狩り”の目撃情報と,私の記憶にある彼女が,同一人物であるという事実も,分からない。
万一彼女が“心臓狩り”ならば,彼女は…彼女は死んでいるという事だ。





「___もしかして,“心臓狩り”は雛菊ちゃんの旧い知り合いなのかも知れない。雛菊ちゃんを殺したくないから,前もって忠告した。声だけしか聞かせなかったのは,姿を見せたら気付かれるから。目撃情報を出していたのは,雛菊ちゃん………君自身に“心臓狩り”が殺されたいから…かも知れない」

「……馬鹿じゃないんですね,深夜さんは。実は私…今思い出したんですが,彼女の声…聞き覚えがあります」


深夜さんは嬉しげに表情を輝かせた。

…認めたくない。
彼女はあんな酷い事を,簡単に出来る様な人では無かったから。
其れに…彼女が死んでいるとも認める事になる。
茶髪に,白い服。
彼女に全て該当する。


「けれど…心の何処かで,彼女じゃない事を祈っている私がいるんです」


当たり前だと言わんばかりに,深夜さんは頷く。

出来れば彼女でない事を祈るが,多分あれは彼女だ。


「名前は,覚えてる?」

「………分かりません。覚えているのは,憂と言う名前と,声だけです。顔すらちゃんと分かって無いんです」


頭が,痛い。
深夜さんは頭を押さえ,髪の毛をグシャグシャと掻き毟る。


___ねぇ雛ちゃん!___

___憂ちゃん,どうかしたの?___

___はなれちゃっても…私のこと,忘れないでね!___

___わかってるよ! 雛ちゃんを忘れたりしないよ!___

___本当!? 約束だよ!___


約束…。
そう,言っていたのに。






「もし憂が“心臓狩り”の犯人であるなら,私は…容赦無く彼女を倒せる………自信がありません」