ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re:       ワタシとアナタ。 ( No.18 )
日時: 2011/03/20 22:35
名前: 葵 ◆ufwYWRNgSQ (ID: LR1GMCO/)

起きてみれば,携帯にメールが数件届いていた。
其の全てが深夜さんから宛で,大丈夫? だとかそういう内容ばかりだ。
もう時計の時刻は夜の八時を指している。
随分と長い間寝たみたいだ。
シンとした部屋の中で,私はレンジに歩み寄る。
レンジを開くと,中には今日の夕食と手紙が入っていた。


『雛菊へ
今日も一人で食べさせてごめんね。
其れに,愛美ちゃんのお通夜も行けなくて,本当にごめん。
今日の晩御飯は雛菊の好きな,鰤の照り焼きにしておいたよ。
冷めているだろうから,レンジで温めて食べてね。
母より』


……一人で食べるのなんて慣れた筈なのに,今は凄く悲しい。
心の支えだった…愛美がいなくなったからかも知れない。
誰でも良いよ…。
誰でも良いから,一緒にいてよ…。
一人ぼっちは………寂しいよ。





___〜♪


不意に,携帯の着メロ。
そもそも私は愛美と母以外のアドを登録していなかったから,深夜さんだろうと携帯を開く。
………しかし,深夜さんからじゃなかった。


「誰…? 知らないメアド…?」


恐る恐るメールを開くと,文字が書き込まれている。


『久し振りですね。
“心臓狩り”の犯人で御座います。
私の忠告を無視し,更には警察と手を結んだ貴女には,罰を与えねばなりません。
………しかし,安心して下さい。
私は,貴女本人に手を出すつもりはありません』


罰…!?
どういう事!?
私以外の誰かに…“心臓狩り”が手を下す!?
私の大切な人………ッ———お母さん!
どうすれば…!?

私は頭をフルに回転させるが,中々答えが見付からない。
不意に,また携帯が鳴る。
今度は電話で,震える手で出た。


『雛菊ちゃん? 良かった…やっと出てくれた。調子はどう?』







「………どう,したら良いと思います…?」


私がそう聞くと,深夜さんは,え?と声を漏らした。

分からない。
不安ばかりが募って,どうすれば良いのか分からない。
お母さんは,女手一つで私を育ててくれた。
お父さんはいない。
確かに会える機会は少なかったけれど,お母さんがいなくなると言われてしまえば,愛美を失ったのと同じ位悲しい。

怖い。
お母さんがいきなり,私の前から消える…?
此の美味しいご飯すら,食べられなくなる…?


「お母さん…お母さんが,“心臓狩り”に殺されるかも知れない…。怖くて,怖くて…。体が,震えるんです…」

『ど,どういう事!? 今すぐそっちに行くから…待ってろ!』


乱暴に通話が切られ,辺りが静まり返る。
静まり返ってしまった部屋はもう,怖くて。
部屋の隅に体育座りをして,私は顔を伏せた。

こんな事になる位なら,最初から止めておくべきだった。
近付かなければ良かったんだ。
ううん…。
初めから此処に帰って来なければ良かったのに,どうして帰って来てしまったんだろう。
まるで此れは避けられないとばかりに,私達は此処に必然的に帰って来た。
………もしかして,あの時から既に,こうなる事が決まっていた…?


___ピーンポーン…


インターホンが鳴り,我に帰る。
急いで玄関まで行って,扉の鍵を開く。
其処には疲れ切った表情の深夜さんが,息を切らして立っていた。


「深夜………さん…」

「話はちゃんと聞く。兎に角,落ち着いて」


私の肩をポンポンと叩き,神妙な表情で言った。
私は深夜さんを部屋に上げると,全ての事を話した。
“心臓狩り”からメールが届いた事。
お母さんの命が危険に曝されている可能性が多少ある事。
一気に全ての事を言い終えると,安心感と疲労感がドッと訪れた。


「と,兎に角…早くお母さんに連絡を取り合うべきだと思う。一度家に帰って貰えれば,何とかなる筈だから」


私は深夜さんの案に頷き,携帯に手を掛けた。
願いを込めながら,私はお母さんの携帯に電話を掛ける。

体が震える。
お願いだから,お母さん………無事でいて…!

結局,何度掛けてもお母さんに電話が掛かる事は無かった。