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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 無 意 識 メ ラ ン コ リ ー ( No.3 )
- 日時: 2011/03/08 17:06
- 名前: N2 (ID: 2de767LJ)
…→2.黄色の記憶
病室の扉が静かにノックの後、開いた。
私は痛みが走らぬよう錆びついた機械のように首を扉の方へ向ける。
「夏也…!」
入ってきたのは手に色とりどりの果物が入ったかごを持った
女の人だった。私を見るなりそう言って目を見開いた。
肩より少し長めの髪を横で結わえている。
顔は白く、やけに赤い唇が映えている。顔には少し皺が刻まれていて、見た目40歳くらいだろうか。
—なつや?
何だか懐かしい響きだった。懐かしいその声は私の胸にゆっくりと染み込んでいった。
「良かった、目が覚めたのね。母さん、すごい心配してたんだから。」
果物の入ったかごを棚に無造作に置くと、その人は私に足早に近づいて言った。そして優しく私のおでこを撫でた後思い出したように「お医者様呼んでくるからね」と付け足して、かけるように病室を出て行った。
—なつや、私の名前。あの人、お母さん。
きっとそうだろう。夏也、と呼びかられたとき頭の中の白い霧の一部が黄色く光った気がした。なつや、ナツヤ、夏也。
さっきの話から、あの女性は私の母だ。
ゆっくり、とてもぼんやりだが、頭の中の白い霧が暖かい黄色の光によって払われていく気がした。
何だか安心したのか、瞼が重くなってきた。
—寝てもいいよね、私は怪我人なんだから。
そう自分を言い聞かせ、暗闇に意識を飛ばした。
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