ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 無 意 識 メ ラ ン コ リ ー ( No.5 )
- 日時: 2011/03/08 23:24
- 名前: N2 (ID: 2de767LJ)
…→4.無色な私
カーテンの隙間から月の光が零れる。
もうすっかり夜が病室を覆った。しかし、私は眠れなかった。
夕方の事だ。あの映像が、母さんの言葉が。あまりにも悲しすぎて。
—私は、記憶を失う前の私は、こんな状態になる前の私は、
一体何を想って、何をしたんだろう。
分からない、思い出そうとすればする程、ますます霧は濃くなる。
そんなじれったさに自分が不甲斐なく思えた。
また悲しみが押し寄せ、目の前の月明かりが揺れる。
—私は、
「わたし、は」
誰にも聴かれてない事を良い事に、心の声が口を伝う。
—夏也。他の誰でもない、なつや。
「なつ、や…!」
自分の名前を、自分が存在していることを確かめるために
力強く、名前を口に出してみた。
けれども、言葉は薄暗い闇に吸い込まれるだけ。
とうとう瞼のダムが崩壊して、次から次から涙が頬を流れた。
—知りたい、思い出したい
—私は…!
「教えてあげようか」
急に幼い声がして背筋が凍った。驚いて涙が止まった。
誰だ。この部屋には私しかいないはずだ。
「あなたが何でこうなっちゃったかを。」
声は止まず、病室に響き渡る。
私は堪らず返事をした。
「…教えてよ、誰でもいいから、教えて…!」
藁にもすがる思いで、目をぎゅっと閉じて掠れた声で言った。
そう言ったとき
ふわり、
と 身体が急に軽くなった。
驚いて目を開けると、私はベッドの脇に立っていた。
右足は骨折しているはずだが、きちんと二本足で身体を支えている。
あのわずらわしいチューブや線もない。
「え、一体どうなって…」
「今あなたは幽体離脱してるのよ」
隣から声がして振り向くと、幼い少女がこちらを見て微笑んでいた。
白いワンピース姿に黒い腰までの三つ編み。そしてあどけない黒目。
見知らぬ少女に問う前に少女が言葉を発する。
「私はあなたの味方になれるわ。私は人の煩悩の具現化。
〝カミサマ〟って呼んでよ」
心の内を読まれているようで、怖気づいて言葉が出ない。
たくさん訊きたいことがあるが。
「ほら、ベッドにはあなたがいるでしょ?…そっちは外側。今のあなたの姿が内側。今だったら、私以外のほかの人には姿、声は見えない聴こえない。」
口早に説明する少女に頷くことでしか反応できない。
ベッドにはチューブや線で繋がれている私がいた。
私は記憶を失ってから初めて私の外見を見ることができた。
肩までの天然掛かった茶髪。病弱に見える白い肌。
今は閉じているが少し切れ目な目だと言うことがうかがえる。
三つ編み少女…カミサマ、は私が落ち着いたと見て
優しく私の手をとった。
「気分転換にお散歩しよっか」
私はその言葉にも無言で静かにうなずき
カミサマに導かれるまま、病室の扉を開けることもなく
通り抜けて行った。