ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 無 意 識 メ ラ ン コ リ ー ( No.6 )
- 日時: 2011/03/09 20:30
- 名前: N2 (ID: rn3pvd6E)
…→5.夢色散歩
月は光を絶やすことなく煌々と頭上で煌めいている。
まるで闇に私とカミサマが紛れてしまわないように。
病院の中庭を、カミサマに手を引かれ歩く私。
ふわふわしていて夢心地な気分だ。
ざわざわと、子守唄の様に優しく歩道の木々が揺れる。
—本当に、夢なのかも。
夕方、あんな事があったから。記憶を無くしてしまったから。
きっと、痛い辛い現実から目を背けたかったんだと思う。
私を引っ張るカミサマが急に止まった。
私もそれにあわせて止まる。
「なつやはさぁ、」
くるりと三つ編みを揺らして私の方に向き直る。
私の名前を悪戯っぽく呼ぶ。
私はカミサマに名前など教えていない。
—カミサマは、本当に神様なんだろう。
神様だから、人の考えていることなどお見通しなのだろう。
これはきっと夢。私の世界なのだから、何でもアリなのだ。
そう自分に暗示をかけることで、この不思議な状況をのみこむことができた。
「〝本当〟を知りたいと思う?」
大きな黒目で真っ直ぐに私を見据える少女。
その瞳は無邪気さそのもの。
私はその瞳に魅入られて、動くことができない。
月明かりが二人を照らす。
「〝本当〟を知って、なつやは幸せになれるの?」
カミサマは〝本当〟を知ってるのだろう。
何故こんな質問を私に投げかけるのか。
それは、きっと
私が記憶を無くしてしまった時に起こったことが
とても残酷なものだからだろう。
急に頭に流れてきたモノクロの映像。あれを見る限り、この先の〝本当〟はかなりの辛いものとなるのは容易に分かりきっていた。
けれど、
「…いい、それでも、私は…」
とぎれとぎれでしか言葉が見つからない。
カミサマに私の思いをきちんと伝えたいけれど、言葉より思いの方が多すぎて冷静に考えることができない。
「〝本当〟を、知りたい」
病院の白い寝巻の裾を皺が残るくらい握りしめて言った。
私なりに…私の思いのたけを伝えられたはずだ。
カミサマはそんな私を見て、頬を緩めた。
カミサマは見た目—私よりも幼いはずなのに、その微笑みは世界のすべてを知り尽くしているような。
そんな顔で笑った。
「なつやは勇気があるのね」
カミサマは嬉しそうにそう言うと、私の手を握り直し
「じゃぁ、帰りましょっか」
元来た道を引き返し始めた。
私も手を引かれ、ついて行く。
カミサマと夜の散歩。
何だかこの時間だけ、妙に気分が落ち着いた気がした。
ふわふわとした足取りで病室へと向かう。
お互いに何も喋らないまま。
月が二人を照らす。
まるでこれから始まる喜劇か悲劇かを照らすスポットライトの様に。
木々がざわめく。
まるでこれから起こる悲劇か喜劇かを知らせる鐘の様に。