ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Episode1-2 修正しました ( No.3 )
- 日時: 2011/03/12 19:55
- 名前: 氷川 (ID: BZFXj35Y)
━ Episode1-2 ━
東京の街で犯罪者になれば、それが一番厄介な事であろう。
日本の中で五本指に入る大都市だ。それなりに、セキリュティも厳重で、引っ掛かれば面倒である。
東京 世田谷
閑静な昼過ぎの住宅街を駆ける明良と歩夢。5分ほど走った所で、家と家の隙間の路地に侵入した。
「はぁ………はぁ………大丈夫、歩夢?」
「う、うん。それより、なんで逃げるの?警察呼んだら、父さんも母さんも助かったかもしれないのに………」
歩夢の言葉で、明良の脳裏に両親の死体と血まみれのリビングの光景が蘇った。
明良は大きなため息をつき、歩夢の頭を優しく撫でる。
「2人とも死んでた……それに、あのまま家にいたら、歩夢は絶対に避けられない容疑で捕まってたよ。」
「…え?事情を話せば、警察だって分かるよ。」
「お前、自分が血のついた包丁持ってたの忘れたか?指紋調べられて、少年院行きだ。」
明良は地面に座り、空を見渡しながら言った。雲一つない快晴で、今の明良達とは正反対で穏やかだった。
明良は青空を見て、自分たちの立場がどれだけ酷いものかを痛感する。
「お兄ちゃん、僕、本当に母さん達を殺したのかな………」
「え?」
歩夢は明良の隣に座りながら、不満そうな表情を浮かべて呟くように言った。
「記憶がないんだ………。気付いたら、リビングで包丁持って立ってたんだよ…………」
「俺も、どうしてリビングで倒れてたんだろ……………」
2人はリビングにいた以前のことを思い出そうとするが、頭の中に何かが引っ掛かり、何も思い出せない。
明良は再びため息をつき、これからどうするか考え始めた。
「金もない………何も出来ない。一体、どうすればいいんだよ…………」
明良が徐に立ち上がったその時だった。
「おい!!!そこの君達!!!」
明良達が来た方向から、何の前触れもなく男性の大声が聞こえた。
2人が声のする方向を振り向くと、そこには男性警察官が1人立っていた。
「や、やばい………歩夢、逃げるぞ!!!」
「う、うん!!」
「待ちなさい!!止まりなさい!!!」
明良と歩夢は、警察官の声を無視して反対方向へと走り出す。警察官も同時に走り始めた。
2人は家が建ち並ぶ通りに飛び出し、右に曲がって一直線の道をひたすら駆ける。
通りを歩いている主婦や配達員の若い男性は、道を駆ける2人を不思議な目で見ていた。
「おい!!!止まれ!!!」
2人を追って通りに出てきた警察官は、全力疾走で2人に段々と近づいてい来る。
高校2年生の明良は本気を出せば巻けるが、中学2年生の歩夢の体力に合わせて走っていた。
「くっ………歩夢、こっちだ!!」
歩夢の手を握り、明良は目の前にある世田谷通りに向かった。
一気に大通りに出ると、赤信号にも関わらず車道に飛び出した。歩夢は小さな悲鳴をあげて目を閉じる。
「危ない!!」
明良の耳に、女性の悲鳴と男性の声が聞こえた。
と同時に、2人の左右から車のクラクションと急ブレーキをかける音が響き渡った。
2人は車道を無事に駆け渡りきると、そのまま右に曲がって交差点を目指す。
が、ここで明良は失敗に気付いた。
交差点の角に建つ世田谷警察署─────
しかし、明良は足に力を入れて、目の前に見える世田谷警察署の先にある交差点を目指す。
「こちら秋田です!!世田谷警察署の前に殺人犯と思われる容疑者が通ります!!応援を下さい!!」
後ろから追いかけてくる警察官の声を聞き、明良は冷や汗を流して、心臓の動きが速くなっていた。
2人が世田谷警察署の前を通った瞬間、署の駐車場からパトカーのサイレン音が聞こえ始めた。
「はぁ………はぁ……交差点抜けるぞ!!」
「あ、あれは無理だよ!!!」
「行ける!!兄ちゃんを信じろ!!!」
明良は歩夢を掴む手に力を入れ、目を閉じて信号が赤の交差点に突っ込んだ。
「お、おい………まじか…………」
後ろから追いかけていた秋田と言う警察官は足を止め、呆然とした表情で2人を見つめた。
辺りに鳴り響く大量のクラクション、途中で車と車がぶつかる轟音も響き渡った。
しかし、明良達は交差点を傷なしで駆け抜けると、そのままビルや住宅が立ち並ぶ中に走り去って行った。
* * * * *
「おぉ〜♪今のは凄いんじゃね?」
「……あの方達が選んだ人材だ。これぐらい当然でないと困る。」
世田谷警察署の前に建つマンションの屋上から、2人の男性が走っている明良達を見下ろしていた。
赤いネクタイとストライプ模様のダークスーツを着た金髪の男性は、ニヤリと笑った。
その男性の隣にスナイパーライフルを抱えて座っているジャージ姿の男性も、不気味に微笑んだ。
「クサカベ、お前の役割は‘兄弟の殺害’だ。それ以外はしなくていい。」
スナイパーライフルを抱えているクサカベに、金髪の男性はサングラスを掛けながら言った。
クサカベは組み立て式のライフルをカチャカチャと分解しながら、アタッシュケースに入れていく。
「分かってますよ。ハシモトさん、これからどうしますか?兄弟を追いますか?」
「いや………俺は一旦戻る。警察や野次馬には目撃されるなよ。」
「りょ〜か〜い♪」
ハシモトはクサカベにそう言うと、マンションの屋上を後にした。