ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: エスケープ Episode1-3更新 ( No.4 )
- 日時: 2011/03/13 14:00
- 名前: 氷川 (ID: BZFXj35Y)
━ Episode1-3 ━
コツコツコツコツ…………───
長い廊下をスーツ姿で歩く強面の年配男性は、手に持った資料を見ながら、眉間に皺を寄せていた。
“国土交通省副大臣夫妻殺人事件 捜査本部”
と、壁に掛った紙の横にあるドアを男性は開けた。
大広間の様な部屋には、業務用の机が1つにパイプ椅子が10脚ずつの列がズラリと並んでいる。
列の一番前には、壁を覆い尽くすほどのモニター。脇にはホワイトボード。
入ってきた男性は、向かい合って並んでいる机の方に歩き、中央の椅子に座った。
男性の両脇には、眼鏡をかけた賢そうな男性と体格の良い巨体の男性が、すでに座っていた。
「これより、国土交通省副大臣夫妻殺人事件の捜査会議を始める。」
今回の捜査会議を指揮する志田光男はそう言うと、東大卒のインテリ警部補である森大地に視線を向けた。
森は一礼して立ち上がると、マイクを持ってモニターの電源を入れた。
「今回の被害者は、題名の通り、我が国の国土交通省副大臣である西村昭夫さんと妻の歩美さんです。」
モニターに2人の写真が映ると、次に明良と歩夢の個人写真に映り変った。
「容疑者としては、被疑者の息子である中学2年生の歩夢君と高校2年生の明良君です。現場には、歩夢君の指紋が付着した包丁が発見されており、明良君は共犯者として同時に捜索しています。被疑者の死因は、腹部を刺された刺殺と断定。容疑者と被疑者に何らかのトラブルが起こったと推測して、現在容疑者と被疑者の近辺を捜査中です。」
モニターの電源が切れ、捜査本部の後ろで待機していた婦警達が、事件の資料を配り始めた。
森が席に着くと、次は巨体の刑事である伊部虎太郎が立ち上がり、ホワイトボードの前にやってきた。
伊部はホワイトボードに明良達の写真を貼り、その他の事件資料を貼って行く。
「地元の警察には、地区のパトロールを命令している。捜査本部の貴様たちは、聞き込みをしてくれ。」
伊部の低く大きな声は、マイクなしでも捜査本部に響き渡る。
「相手は子供でも殺人犯だ。気を抜かずに注意且つ本気で捜査に取り組め。何か質問あるか?」
伊部が目の前に座っている数百名の捜査官に聞いた。
すると、一番前に座る童顔の若い男性が手をあげた。伊部が睨むと、男性はビクリと体を震わせた。
「あ、あの、容疑者の子供たちが逃げきれそうな場所が……1つありますけど………」
若い男性の言葉に、伊部だけではなく、森と志田の視線も若い男性に向けられた。
若い男性は資料を見ながら、その説明を始める。
「今日の夕方から、代々木の第1体育館でアイドルのコンサートがあるんです。そこ、観客が2万人は集まるんです。周りも結構渋滞が予想されてて、隠れるにはもってこいの場所です。仮に彼らが訪れ、我々が見つけて逃げしたりすれば、体育館の周りは逃げる場所が多いですし、面倒になると思いますよ。」
若い男性は説明を終えると安堵の息を漏らして、資料から手を離した。
伊部が志田の方を向くと、志田は何も言わずに首を縦に振った。
「………よし。手分けして第1体育館の周りを中心に聞き込みをしてくれ。解散。」
伊部の合図と共に、捜査官は一斉に席を立ちあがって会議室を後にしていく。
志田も席を立ち上がり、先程の若い男性に声をかけた。
「君、ちょっといいかい?」
「え、あ、は、はい!!」
若い男性は志田の元に小走りで来た。若い男性は、志田にぎこちない一礼をする。
「名前はなんて言うの?」
「警察庁刑事局捜査第1課の坪岡蓮介です。」
「坪岡捜査官、期待してるよ。」
志田が坪岡の肩をポンポンと叩くと、坪岡は笑顔で一礼をして捜査本部から出て行った。
志田が坪岡の背中を笑顔で見ていると、伊部と森が近づいてきた。
伊部が表情を曇らせると、それに気付いた森が伊部に尋ねた。
「どうしましたか?」
「ん、いや、あの坪岡って奴………なんか気に喰わねえ…………」
伊部の言葉を聞き、志田が振り向きながら言った。
「変な考えは止めて、伊部は聞き込みに言って来い。森は俺と一緒に事件現場に行くぞ。」
志田の命令で、伊部は捜査本部から出て行った。
森は志田と共に、事件現場である明良達のマンションへと向かった。
* * * * * *
「……計画は成功です。」
警視庁の廊下を歩きながら、坪岡は先程の穏やかな表情と一変して、不気味な笑みを浮かべていた。
坪岡は携帯で誰かと話しながら、エレベーターに1人乗りこむ。
「はい。捜査員たちの半数が、代々木第1体育館周辺に来る予定です。」
坪岡は携帯を耳と肩で挟み、資料を右手に左手でエレベーターの「1階」のボタンを押した。
「コンサートは夕方の6時ジャストに開始。開始直後に花火が数発打ちあがります。その時がチャンスです。」
チン♪
エレベーターのドアが開き、警視庁のエントランスを平然と歩く。
「私も体育館に向かいます。…………分かってます。穏便に演じときますよ。」
坪岡は携帯の電源を切ると、警視庁を後にして代々木第1体育館へと向かった。