ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ε=(‐ω‐;;)俺と悪魔щ(`Д´щ;)の百年戦争 ( No.10 )
- 日時: 2011/03/20 21:56
- 名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)
「は?…いきなりなんだよ、それ」
「おれも、どう説明すればいいか…これは難しい話なんだ。いや、むしろ概念を無視すれば、ある意味簡単な話だともいえる」
「じゃあ、簡単に言ってくれ。急に難しい話されても困る」
神楽坂はふう、と息をついて、俺を見据えた。真剣な目。彼は答えた。
「わかった。…おれたちは神に仕えている。人間は[天使]と呼ぶよ。……そして、あの漆黒の貴公子は地獄に君臨する邪悪なモノの権化。[悪魔]と、呼ばれているね。彼の狙いは君の魂。…いや、正確に言えば、[今は]君の魂になっている、かの魔法王ソロモンの魂。輪廻転生、魂は巡り、君という器にソロモンの魂は受け継がれた。あの悪魔はそのことに気づいてしまった。だから、君を襲いに来たんだ。……理解、できた?」
「ちょっと、待ってくれよ。天使?悪魔?それ、本気…で言ってんだよな」
「信じられないのもわかる。本当は、[信じてはならない]ように、人間は造られているからね」
「信じてはならない…?」
「神は、学んだ。対抗する力を持たない人間は、おれたち天使や悪魔と共には暮らしていけないのだと。そのために天に国を創り、下界に悪魔を追いやった。そして人間が天使と悪魔に関わらぬよう、人間の意識の深い処に[神、天使、悪魔の存在を忘却するように]と暗示をかけている。たとえ目の前で起こったことが、人間界の常識を外れているものだとしても、おれたちの存在を信じないように。これは、人間を護るために神が架せた枷だ。…だから、仕方のないことだとも思う」
待て、もう俺の頭の許容量をとうに超えている。それに、神楽坂はさっきから普通に天使やら悪魔やら、それに加えて神など口走っているけれど、そんなの俺にどう信じろって言うんだ。まあ、俺がキリスト教徒とか、熱心な信者とかだったらすんなり受け入れられるんだと思うが。本当に、存在するのか。認めないと頑固になるつもりはない。これまで俺の身に起きたことが人間の範疇を超えていることに関しては、わかる。あいつが人間じゃなかったら、俺の部屋なんてカギがなくても入れるわけだし。急に消えたり現れたりすることもできるんだろしな。悪魔だったら。
それに…俺が狙われている理由。ソロモンって名前は聞いたことがある。どっかの王様だろ?でも、詳しいことは知らねえし。魂がどーのこーのって話はよくわかんなかった。魂、か。身体は心臓の鼓動によって動いてると思ってた。生物の授業で習ったからな。
つまりは、ソロモンの魂が俺の魂で、それをあいつが欲しがってるってことか。まとめにもなっちゃいねえけど、こんなもんだろう。
「村雨君…」
神楽坂が、俺を呼ぶ。心配そうな声だ。ああ、俺がずっと考え事して黙ってたせいか。すまないが、まだ頭の整理ができていないんだ。彼が極力わかりやすく説明していてくれたのは感じた。だから、余計に申し訳なく思う。俺の頭…というか思考は意外と硬いんだ。俺自身もそう思った。
「本当にいるんだな。…神様とか天使とか、悪魔とか」
「きっと、まだ実感が湧かないんだろうね。わかってもらうには見てもらったほうが早いと思って起こしたんだけど。…そういえば、身体は大丈夫…?」
「あ、忘れてた。…痛えけど、動ける」
腰をさすってみる。確かにまだ本調子ではないが、いざとなったら逃げれるくらいは回復している。でも、まだ無理はできねえかな。神楽坂は落ちついた声で嘆息した。
「そうか、良かった。ラファエルに治してもらえれば良かったんだろうけど、彼は結構向う見ずな性格でね。君を倒していた悪魔を見て、カッとなって戦いに行ってしまったよ。おれは治癒魔法は得意じゃないんだが」
「は?…ラファエル……って。戦ってる、って、それ…」
「うん。仁科大和、君の親友の本当の名だよ。言っただろう、[おれたちは]天使だと。彼は天使だよ。ちなみに、おれの本名はラジエル。もっとも、人間界で、人間として語る名は神楽坂巴だけれど」
ラファエルにラジエル…確かに、聞いたことがある。まぎれもない天使の名前だったと思う。ファンタジーゲームとか、小説によく出てくる名だ。俺はごくり、と息を飲む。本当、なんだな。それと同時にある思いが胸に過ぎる。神楽坂が天使なのは、なんとなく合致したような気がした。人間っぽくない、と言ったら変かもしれないけれど。神秘的なオーラを醸し出していたのは、今思えばそういうことだったのか、と納得した。でも、ヤマトは……
「ヤマトが天使って…ないわ」
「そう?」
「そうだろ。ってか全然わかんなかった。変な奴なのはたしかだけどさ……人間より人間っぽいぞ、あいつ」
「それは…人間界での暮らしに慣れているせいではないかな。ずっと昔から、暇があれば人間界に来ていたし。それに彼は人間が大好きだからな。一緒に旅をするのが楽しみなのだと言っていたよ」
「へえ…、それはそれは」
—----------------パシィィイン—----------——-—---
一段と大きな破裂音が響く。突然のことで、俺は耳を塞いだ。なんだこの音。片目を開け、神楽坂の様子をうかがう。彼は苦い顔をして「まずい…」と呟く。その時だった。
—----------—--—バシィイイ!!!-------------------
光の境目から何かが飛んでくる。あれは人だ。もしや…。
俺が叫ぶよりも早く、神楽坂は片手を前に突きだした。どこからともなく現れたのは、前に見たことのある、彼が学校に持ってきていたあの分厚い本。開かれたままの本は神楽坂の手におさまり、より一層強い光を放つ。その瞬間、開かれた本から次々にページが飛び去っていった。目にもとまらぬ速さ。手裏剣のようにシュッシュッと擦れる音。何百、何千もの紙が俺のベッドを円状に囲むようにして空に浮かんだ。
すると、グッドタイミングに光の境から飛んできたモノが、連なる紙をクッション代わりにして俺のベッドに着地。あはは、と笑うそいつに、グっと殴りたい気持ちを堪えた。
「あははは、気ぃ抜いたら吹っ飛ばされてしもうたわぁ!すまんなぁラジっちゃん!助かったわー…って、イオリン!おひさやなぁ、元気にしとったか?」
「……ヤマト」
「ほんま良かったわー、イオリンが倒れてるとこ見てもう手遅れかと思っとったんやけど…あ、ラジっちゃんから話は聞いた?実はな、わし、天使やねん」
「…何が…何が『わし、天使やねん』だ…。いいかげんにしやがれ!俺の気持も知らねえで…!」
「まあまあ、落ち着いて、村雨君。…ラファエル、君は空気読めてなさすぎ」
「へ?ラジエルは本以外に空気とかも読めるんか!凄いなぁ!」
「……そういう意味じゃないよ、ラファエル…」
神楽坂が肩を落とす。そりゃあそうだな。誰かこいつに緊張感とか臨場感を教えてやってほしいくらいだ。俺はさきほどまで真剣に、まじめにこの状況を考えてたんだ。深刻な話だろ?俺が死ぬか、生きるかの問題なのに、こいつは…こいつは…。俺はヤマトに向かって静かに言った。
「後で、一発殴らせろ」