ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: ε=(‐ω‐;;)俺と悪魔щ(`Д´щ;)の百年戦争 ( No.11 )
日時: 2011/03/21 03:09
名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)

「…ソロモンじゃない…?お前は、誰だ…———」

目下で気を失っている青年を見て、我は呟く。こいつは、ソロモンではない。あいつじゃない。振りかぶろうとしていた長剣をゆっくりと下げる。誰だ。お前はいったい誰なんだ。

人間界で言う一週間前、我はソロモンの封印から解き放たれた。…この子供の手によって。
しかし解き放たれたと言っても、そう容易くソロモンの呪詛からは逃れることはできなかった。
あのビンに閉じ込められていた時からもそうだったが、我は聴力、視力、その他の五感と魔力を失っていた。
それでも感じたのだ。あいつの、ソロモンの魂を。

——————————……この子供の身体から。

だから我はこの一週間、その魂の力を辿ってむやみに攻撃し続けた。
あいつに復讐するため。あいつに今一度思い知らせてやるため。それだけのために。

だが、やっと視力を取り戻した今、この瞳に映るものはソロモンの姿ではない。
ソロモンの魂を持つ、ソロモンとは違う人間。

我は嘲笑った。ああ、そういうことか!なんと喜ばしいことだろう!

「ソロモンよ、お前は、死んだのか」

我が封印されていた歳月は思ったよりも長かったらしい。あいつは死んだ。我がこの手で殺すまでもなく、人間らしく、ちっぽけに死んだのだ。
だから、あいつの魂だけが[此処]にある。

けれども、何故だ。何故、我の心はこんなにも乾ききっている。満足できない。これは、飢えだ。何故、我は飢えている。

「そうか……」

我は

「この手で奴を殺したかったのだ。この手で、思い知らせてやりたかったのだ」

あの男に

「すべてのものに価値などない。儚い泡沫なのだと、あいつの前で証明するために——…」

不愉快だ。
そうなのだ。喜ぶべきではない。あいつを簡単に死なせたことを、喜ぶべきではない。

我がこの手で殺さなければ、意味などない。

「やはり、つくづくムカつく男だなソロモンよ。死してなお、我を苦しめるか…」

チッと舌打ちをして、気を失っている子供の頭を腹いせに踏みつけた。
そして気付く。ソロモンはまだ[死んではいない]。

身体が朽ち果てただけ。魂はちゃんと[此処]にあるではないか。

「…くッくくく…これは盲点」

我は長剣を投げ捨て、しゃがみ込んで子供の髪を掴み、持ち上げる。まだ大人と言うのは早い。あどけない顔。我は鼻で笑った。非力な人間。弱い人間。何の力も持たぬ人間。ソロモンという厄介な器ではない。

「ゆるせ。我はお前に何の恨みも興味もない。……だが、その魂は返してもらう」

我は片手に魔力を込めた。封印前は、魔力などいちいち集中して溜めずとも、簡単に魔術を使えたのだがな。仕方ない。我は病み上がり同然。長き封印から一週間で、ここまでの力を復活させたことに自画自賛したいくらいだ。

ああ、もうすこしで憎いソロモンを確実に殺すことが出来る。
いや…そうだな。魂は地獄に持ち帰り、思う存分蹂躙してやろう。屈辱の日々を永久に過ごすのだ。それがいい。

我が微笑んだ時だった。


——------ガシャン-------------

「その人間から離れろ、悪魔」


…はぁ、これは参った。厄介なソロモンがいなくなったと安心していたが、そうか、忘れていた。やはり封印の影響は大きかったな。感覚も記憶もボケてしまったようだ。

「ああ……これはこれは、上級天使がお二人も…何事ですかな」

「とぼけるんじゃねえよ。わしの言った事が聞こえなかったのか、この薄汚い低能の悪魔め」

「薄汚い低能…?それは我に対して言ったものか…?」

「他に誰がいるってんだよ」

「ほう、…おもしろい。安い喧嘩を我に売ったところで、我がこいつを手放すとでも思っておるのかのう。実にあわれな…っくっくっく」

「ムッカー…!!ラジっちゃん、わし頭きた。イオリンのこと頼んでええか?」

「…肯定しなくても、行くんだろう…?」

「すまんわ!」

片方の天使が我に杖を向け、もう片方の天使が子供に寄る。子供一人に天使2人が応戦するとは…。やはり、この子供にはソロモンの魂が入っているのだな。そこまでする必要があるから、彼らは我に牙をむくのであろう。

我は子供を離し、杖から放射される光に溜めておいた魔力で粉砕する。その瞬間、もう一人の天使が子供を庇い、我を押しのけた。ベッドのまわりに光がともる。チッ……結界を張ったか。難儀なものよ。

しかし、我は久しぶりにこの戦いを楽しんでいた。足りないのだ、何もかも。失いかけていたのだ。何かを求め、争い、狩ることの喜びを。
だから、ちょうどよい。これくらいが、ちょうどよいのだ。
多少手に入りにくいものほど、欲しくなる。そうだろう…?

待っていろ、ソロモンの魂よ。我が必ずともこの手中におさめてやる。