ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ε=(‐ω‐;;)俺と悪魔щ(`Д´щ;)の百年戦争 ( No.12 )
- 日時: 2011/03/22 02:58
- 名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)
俺がそう言ってわなわなと震える拳を構えると、神楽坂が止めに入る。ヤマトはあいかわらずヘラヘラしているし、なんなんだこの状況は。何度も言うが、これってフツーに危機的状況なんじゃないのか?俺たちはこんなことをしていていいのか?…いや、よくなかった。ヤマトが吹き飛ばされた光の原点から、深い声音の笑い声が聞こえる。俺たちは一斉に振り向き、そしてその声の元に集中した。
『…くッくく……我との戯れを差し置いて他の男と談笑とは、いささかデリカシーというものがないのではないか。我が女ならば、お前のような男とは生涯付き合いたくはないものだな、ラファエルよ』
姿を現す漆黒。ヤマトが戦っていた時、黒と白、半々に割れていた光は今や完全なる闇に移り変わっている。すべてを飲みこんでしまいそうなブラックホールの中から、奴はゆっくりと歩み出る。堂々とした風格、重い空気を引き連れて、一歩一歩。どこからともなくカツン、カツンと靴の音が聞こえる。ああ、こいつだ。確信した。
常闇の中でぎらりと輝く、おぞましい程に美しい、二つの赫。その視線は誰をも畏怖に陥れる。
「あの、目だ……あいつだ。あいつが、俺を襲ってきた奴……」
俺が意識を手放す前。短い間だったが、俺は目に焼き付けていた。その端麗な容姿も、その禍々しい瞳の色も。絶対に忘れられない。忘れることを[許されない]ような…その姿。
俺がそいつを凝視していると、彼はそれに気付いて、俺のほうに顔を向ける。そこには歪んだ笑みと——-------------……
揺らぐ、紅。
「………ッ……----------」
動か、ない。
俺の身体が…、動かない。息が…、できな、い。
くっそ、あいつ、何しやがった!
身体の内部からくる震えが止まらない。なんだよ、これ。金縛りか?駄目だ、目を瞑れ。あいつから視線をはずせ!これ以上は、無理だ。…チッ…瞼も動かせねえ。俺の身体なのに、…自由がきかねえ!
息が苦しい。
視界が、だんだん白くなる。
もう、ホントに、これ以上は………——------。
「おっとぉ……危ないなあ。やめてや、勝手にイオリンをたぶらかすんは」
ヤマト…?
俺とあいつの間に割って入ったヤマトはそう言って、彼らしくもないぎこちない笑みをつくる。俺の視界は彼の背中によって、遮られた。しばらくしてふっと身体の力が抜ける。指も、瞼も動かせる。そうか、あいつの瞳から目を離したから…。けれど、あのままヤマトが割って入ってくれていなければどうなっていたか…。考えただけでもぞっとする。
奴は、わずかに微笑んで、わざとらしい知らん顔をしながらそっぽを向いた。
『ああ、すまない。…そちらの子供が我に熱い視線を送ってきていたのでね、つい、反射で。悪気はなかった、…ゆるせ』
「…ほんま、油断も隙もない奴やな」
『悪かった、と言っている。…もとはと言えば、お前が我を放置してどこぞに浮気をしていたのが原因なのだ。、それに関してはお前の責任でもあろう。小さきことにぐたぐたと、根に持つでない。見苦しいぞ?』
「ぐたぐた言っとんのはアンタのほうやろ」
『ほう、斬新な解釈をお持ちのようで』
「まじムカツクわぁー……そこまで言うんなら相手になってやろーじゃないの。その代わり、イオリンには手ぇ出すなや。お前の相手は、わし一人。それでええよな」
『くくッ…強引な男だな。天使はいつからそこまで傲岸不遜になったのだ?せめて愛らしい小娘に言わせれば、可愛いわがままとして受け取ってやらんこともなかったのだが……』
「何が言いたい」
『わからんのか?お前では役不足だ、ということよ。我に命ずるは我自身のみ。誰が天使の言うことなどに簡単に従うものか。お前はなにか、勘違いでもしているのではないか。相手をしてやる、だと?笑わせるでない。我の望みはただひとつ…』
そいつはゆらりと片手を上げ、指差した。
『そこに在るソロモンの魂を頂くことよ。……お前らも、知っておるのだろう?』
- Re: ε=(‐ω‐;;)俺と悪魔щ(`Д´щ;)の百年戦争 ( No.13 )
- 日時: 2011/03/22 13:15
- 名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)
奴の指の先には、俺。ヤマトと神楽坂がぴたりと動きを止める。ああ、神楽坂がさっき言っていた通りだ。こいつが狙っているのは、ソロモンの魂…まあ、つまり俺の魂ということらしい。俺は顔がひきつった。やっと、毎夜こいつが俺を襲いに来た理由がわかった。本当に、そうなんだな。俺は殺されるかもしれない七日間を過ごしてたってわけだ。ああ、俺ってすっげえ。今まで生き残れたことに感謝した。
「なあ、ヤマト…神楽坂」
「何?村雨君」
「なんや?イオリン」
「やっぱ、魂って取られると死ぬよな?」
「「もちろん」」
「………そっか。そうだよなあ」
笑うしかない。目の前にいるこいつの脅威は、さっきからよく知っている。ヤマトもふっ飛ばしたくらいだし、俺の部屋は異空間化してるし、広がっているのはまぎれもない闇の海。こんな奴に目をつけられた俺ってどんだけだよ。こんなん、ありえねえだろ。よりによって、何で俺が…。ソロモンの魂ならソロモンが責任取れっつーの!
『お前の思うことはわかるぞ、人間よ』
途端に聞こえる声。俺はおもわず顔を上げた。あ、目を合わせちゃあ駄目なんだった…と気付くには遅かったが、しかし今度はあいつのほうから視線をはずす。彼はやや横向きに顔を傾けて、淡々と続けた。
『我も、あの男にはさんざんな思いをさせられているのだよ。…この我が、あの男の雑用に振り回され、こき使われ、あげくの果てに封印だと。それも、我の率いる八十の軍と共に。滑稽な話ではないか』
「……………」
『寝ても覚めても、封印から解き放たれても、我の心は癒えることはなかった。あの男によって崩された何もかもが消えない。ただ憎しみだけが我を復讐へと急き立てる。醜い感情だ。…だが、これこそ悪魔たる由緒正しい行いなのだと思わないかね。理性など捨て、自らの本能に従う。……そうだろう?』
奴は顔色一つ変えず、すべてを言いきった。が、その声には十分すぎるほどの熱が籠っていた。彼の言うソロモンへの憎しみ、不快さ、その他もろもろの負の感情。それを、そのすべてを、彼は紅の瞳の奥底に宿している。俺は、なぜ彼の目があんな色になってしまったのか、わかったような気がした。
それにしても、やっぱりはた迷惑な話だ。あいつの話に出てくるのはソロモン、ソロモン…。結局は、全部ソロモンが悪いんだろ。本当は俺なんか関係ないじゃねえか。ふう、と深呼吸する。俺は、気丈にもそいつに言い放った。
「なあ…ソロモンって奴は、ずいぶん昔に死んだんだろ。あんたが憎んでたのはソロモンの[人格]とか、そういうもんなんだろ。…魂に罪はないはずだ。…少なくとも、今は、この魂は俺のもんなんだ。俺のせいじゃねえんだから、俺を殺す権限はあんたにはないよな…?だから、諦めてくれよ、頼む…」
たぶん上出来だと思う。理にかなった言い訳だ。俺は、そいつの顔色をうかがった。どうか、これで退いてくれ。あいつが納得してくれたら、俺は別にそれでいいと思った。これまでのことはなかったことにして。俺は俺の平凡な人生を一からやりなおすんだ。これが、俺の理想。
『ああ………人間よ、』
奴は、口元を綻ばせると、優しく笑った。
『………言いたいことは、それだけか?』
「…え……?」
目の前が、紅蓮に染まった。