ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ε=(‐ω‐;;)俺と悪魔щ(`Д´щ;)の百年戦争 ( No.14 )
- 日時: 2011/03/27 05:14
- 名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)
目の前に現れた炎の塊が俺を襲う。顔をそむけて腕を構えた。ものすごい熱風だ。ダメだ、防げない!俺の身体に触れるその瞬間。
——--------パキィイイン——-----------
ガラスが割れるような高音が響いた。それに、先程までの熱風が消えている。俺がそっと目を開けると、そこには焼け焦げたページの断片がひらりひらりと散っていた。その後に、極小の火の粉が舞い落ちる。ひどく幻想的な光景だった。
俺はほっと一息ついて、何が起こったのかとあたりを見まわす。俺の隣にいたヤマトは微動だにしていない。…ということは。
『ああ…忘れていた。そちらの天使は結界を使えるのだったな。我としたことが迂闊、迂闊…—---』
くっくっく…笑い声が木霊する。俺は後ろを振り返った。そこには、あいかわらずあの分厚い本を浮かばせた神楽坂が、片腕を上空に挙げていた。神楽坂を包み込むような暖かい光と、純白に光るページが何百も飛び交っている。結界…だと?さっきの炎を相殺させたのは神楽坂だったのか。
「神楽坂、助かった」
「どういたしまして……でも、油断はできないよ。彼は—————…まだ、本気を出していない」
神楽坂はあいつから目を離さず、声音を低くして言う。俺は驚愕した。まだ、本気を出してないって…。じゃあ、本気を出したらどうなんだよ。というか、何で本気を出さねえんだ。
俺のことはいつでも殺せる…って余裕ぶっこいてんのか?それはそれでムカつくけど…
…でも、なにか様子がおかしい。
あいつは確かに強いけど、…本気を出していない?…そんなタイプじゃないだろ。もっと、自分の力をフルに使って人をいたぶったりする奴…な気がする。自分と相手の力の差を見せつけて、圧倒的にねじ伏せる。さっきからヤマトたちとしている会話を聞いていても、あいつはかなり自分に自惚れてる。ああいうプライドの高そうな奴は一層、手加減なんてしないはずだ。
じゃあ、全力を出せない理由って、…なんだ?
『……そこの人間、何を考えている…?』
上から降ってくる声。なんだよ、まるで俺の心を読めるかのように、またグッドタイミングで尋ねてくる。そうだ。俺は結界があるんだ。心配いらないはず。この際、言ってしまおう。もしかしたら、アタリかもしんねえし…。
「あのさ、あんた……」
ごくり、と唾を飲んだ。
「もしかして…—---本気を出さないんじゃなくて、出せないんじゃないか?」
束の間の静寂。
え、俺、何か変なこと言ったか?でも、俺の推理からしてそういう見方もあるはず…。しばらくすると、あいつが不機嫌そうな声で呟いた。
『だから、どうしたというのだ?これでも我は封印の負荷から早く回復しているほうなのだ。笑わせるなよ、本気を出さなくとも、おまえの命くらい簡単に…—---』
…それは、あきらかだった。こいつ、すっげえ動揺してる。俺はその急変ぶりにポカーンと口を大きく開いた。横目でちら、とヤマトと神楽坂を見たが、2人とも意外だったようで。
「なんや、おまえ。本気出せんかったんか」
「……そうだったのか…」
と目を丸くしていた。ああ、これで俺は少し安心できた。ひとまず、あいつが大きなアクションを起こすことは難しいってことだ。
封印の負荷…とか言ってたけど、そんなに重いものなのか。だけど、俺にとっては好都合。ラッキーだと思っていた俺をよそに、さすがにもう冷静さを取り戻したあいつがコホンと咳払いする。
それから、余裕の笑みを見せたそいつに内心ドキリとした。
『良かったな、人間よ。お前の予想は大当たりだ。だが、甘く見てもらっては困る。…我が全快でなくとも、お前たちを殺すことは造作もない。…そう言ったはずだぞ?』
再びあたりにたちこめる闇。暗雲があいつを中心に渦を巻いているようだった。やばい。なんだよ、これ。本気は出せないはずだろ?隣でヤマトが杖を構えた。…やっぱり、大きい攻撃がくるんだ。神楽坂も結界に集中しているようだった。俺も、できるだけ衝撃を防げるように身構える。
その時だった。
あいつの上空に広がる暗闇から、音もなく現れる—————……扉。
古城にあるような、とびきりでかい門構え。
なんだ。何が起こってんだ。俺がそれを凝視していると、後ろから神楽坂の小さな呟きが聞こえた。
「あれは……————地獄の門」
地獄の…門?
『……チッ、よいところで…』
あいつは軽く舌打ちすると、一歩また一歩と扉に近づいてゆく。奴が肩手を胸の高さまで上げると、その門の扉が真ん中から二つに割れた。
…地獄…。地獄なんて、悪いイメージしかない。よく悪い行いをすれば閻魔大王に地獄へ落とされると言われるが、…本当にあるとは。
開かれた門の先には、一面の黒の世界があった。
あいつが俺たちのほうへ向き直す。…まさか、その地獄の門とやらから変なモン出すんじゃねえよな?やめてくれよ、頼むから。もしくは仲間を呼んだり…か?そっちのほうが今の状況の数倍悪い。俺は一心に扉を見つめた。
すると、奴が溜め息をついて目を閉じる。
『はぁ……無駄話のせいで、もう時間が来てしまったではないか』
「……時間…?」
俺がそう聞くと、奴はさぞかし恨めしそうに静かに言い放った。
『我は所詮、地獄の世の者。封印によってこの人間界に留まっていたが、その封印が解けた今、もう我が此処にいる理由など本当はないのだよ。……迎えの時間だ。先に還った部下たちが我を待っている』
そう言うと、奴は俺たちに背を向けた。扉に向かっていくその後ろ姿を見つめていた俺は、ハッとしてヤマトと神楽坂のほうを見る。ふたりとも首を振った。…追うなってことか。そりゃあいい、俺だって好き好んで追いたくねえよ。
あっけなく去っていく奴を見つめていた俺は、ほっとしていた。
だけど、そう簡単にはいかないってのが運命の非条理だな。
…奴は、わざわざ門の手前で立ち止まって、振り返る。
『…ああ、そう言えば。…そこのお前』
俺のほうに向かって、奴は楽しそうに笑った。
『一週間前、ビンを開けたな。あれはソロモンが我を閉じ込めた器だったのだ。助かったよ。こればかりは、解放してくれたことに礼を言おう。だが……我の封印を解いた時、黒煙を吸い込んだのであろう?』
ビン…。ビン。ビン!……あれか。あのビンが元凶だったのかよ。
驚きを隠せずにいた俺は一週間前を思い出していた。そう言えば、あのビンから黒煙が出て、…それをわずかながらにも吸いこんでしまった俺はその日、一日中咳で苦しんだ。それに、あの日から…こいつが現れるようになった。
よく考えてみると、すべてはあの日に繋がった。あれがこいつの言う封印だとは…誰が想像できるっていうんだ。俺は頭を抱えた。
奴が、俺のショックを受けているさまを見て微笑む。
『……もうひとつ、お前にとって悪い知らせを言ってやろうか』