ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: ε=(‐ω‐;;)俺と悪魔щ(`Д´щ;)の百年戦争 ( No.4 )
日時: 2011/04/02 10:03
名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)

一週間前の話をしよう。すべては、俺の大好物であるマーマレードのジャムビンから始まった。


1話.ビンから始まる物語



俺の両親は2人とも、変わった職についている。母親は世界を駆け巡るスゴ腕のトレジャーハンター。父親は有名な遺跡発掘家だ。その多忙な仕事のせいで、俺が物心ついた時には、俺は一人暮らしを始めていた。まあ、金には困らないし、好き勝手出来るし、そこまで不自由な思いもしたことはない。しょっちゅう友人を呼んではお泊まり会なんてしたり、パーティーもやり放題だ。一戸建て2階つきの家でひとりで暮らすのは少々寂しくもあるが、充実した日々を過ごせていた。

今日も「ふわぁ〜…」と欠伸をしながら、2階の俺の部屋から1階の台所まで階段を降りていく。ちらりと時計を見ると7:30。俺の通う高校はかなり家から近いので、この時間でも余裕だ。
いつもどおり台所の棚を開け、ゴソゴソとあさり、買いだめしていたフランスパンを取り出して、そのままオーブンに入れ、こんがりと焼き目をつける。ほのかな香ばしい良い匂い。これに、例のモノを塗れば完璧。そう、ジャムだ。
俺はジャムをことごとく愛する男!とまではいかないが、やっぱり朝食にジャムはかかせない。苺、マーマレード、ブルーベリー…どれも好きだが、今のお気に入りはマーマレード。あの酸味と甘さときらきらと光るオレンジ色がたまらねえ。それをいろんな種類のパンにつけて食べるのが俺のお決まりだった。しかし------…

「ない。ない。ない。…どれも空っぽじゃねえか!?」

台所のありとあらゆる棚を調べるも、ない。パンと同じく買いだめしていたはずなのだが、見つかるのはどれも空ビン。まさか、な。切らせていたなんて思っても見なかった。どうすんだよ、俺。パンはジャムつけねえと食べれねえってのに!

「まさか、1個もないわけないだろ……んッー…どっかにある、ハズ…」

冷蔵庫の中、いつも溜めておいてある棚の中…意地になって探すも、やはり見つからない。床には、空ビンの山が溜まっていくだけ。俺はふうー…と溜め息をつく。ジャム食べなきゃ調子でねえよ、情けないけど。やっぱさっきの前言撤回。あんま認めたくはないが、俺はジャムをことごとく愛する男のようだ。ちっくしょー、諦めるしかないってか。仕方ない…。
俺は横目でテーブルに置いてあるホカホカのフランスパンを見ながら、もう一度溜息をついた。パンだけ食べるのは苦手なんだよ。甘くねえし、パサパサするし、フランスパンなら尚更だ。落ち込みながら、なにげなくやけになって、普段使わない調理台の上にある棚を開けてみる。もう調べていない場所はここだけだが、そう期待もできそうにない。なんたって、俺はこの棚を使ったことはねえから。ごくたま〜に突然帰ってくる母さんが何回か開けているのは見たことあるけど。

————パタン—----——

背伸びをして、腕を突っ込んだ。ビニールの手触りに、皿のようなものが手に当たる。やっぱないな。と仕方なく諦めようとした時だった。

——---キンッ——---——-

「………ん?」

なにかが爪に当たって甲高く響く音。俺はその音のほうに手を伸ばし、もう一回ごそごそとビニールをかき分ける。すると、滑らかな冷たい容器に指が当たった。もしや…?手のひらサイズのそれを掴むと、ぐいっと引っ張り出す。手の中には、外国製の高そうな深紅のガラス瓶があった。ラベルには[strawberry jam]の文字。

「嘘だろ?…………あった」

よく見ると、ラベルも高級そうだ。ゴシックな感じの、いかにもブランドものみたいな。嬉しくもあり、まだ半信半疑だった。ジャムだからそう簡単には腐らないはずだけれど、消費期限ヤバかったら、いくら俺でも食べるわけにはいかねえし。手の中で回転させるが、そのラベルにはジャムの名前以外書かれていない。小さいながらにかなりの重圧感があるビンは、まだ一度も開封されていないようだ。確かめてみるか…。
俺はきっちりと閉められたビンの栓をあけようとする、がなかなかに手強そうだ。こういう高そうなビンとかは結構開かないんだよな。品質管理がどーのこーので。でも、俺だって男だ。こんなビン、開けられなかったら男の恥だ。まかせとけ、俺の握力なめんなよ!
グッ……ググッ…——。コルクを力任せに引っ張る。



——------ッポン!-------------

密閉された空気が勢いよく飛び出す音。よっしゃ、さすが俺!よくやった、俺!テーブルに置いて蓋をくるくると回す。そしてようやく栓が完全に外れた、その瞬間。

「な、何だよコレ…おえッ…ぅ、…ゴホゴホッゴホッ…」


——------シュウウウウウウ—-----------

ビンの中から自動的に吐き出される煙。それも、黒煙だ。顔を近づけていた俺はいきなりのことで、その煙をおもいきり吸い込んでしまいそうになってむせる。ああ、喉がいてえ。いったいなんなんだよ、コレ!まさか有害物質とか…毒とかじゃないよな?しばらくするとその黒煙はしだいに薄れて消えていってしまった。やめてくれ、こんな冗談。本気で動揺する。俺は恐る恐る、もういちどビンを持ち上げると、それは何故か軽かった。先程までは鉛が入っているかのごとく、確かに重かったはずなのに—---…。気味悪い。俺はそのビンをもういちど、もとあった棚の奥にしまいこみ、何もなかったように閉ざす。そして、朝食を諦めると、さっさと制服のブレザーに着替えて、そそくさと家を出た。まだ喉に違和感がある。気持ち悪さを我慢して、学校に向かった。


俺は、この時はまだ気付いていなかった。
いや、知らず知らずのうちに、本能的に[気づかないようにしていた]…と言った方がいいだろうか。
あのビンを開け放ってしまったこと、そして、黒煙をわずかながらも吸ってしまったその瞬間が、俺のこれからの運命を大きく変えることになろうとは…。