ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: ε=(‐ω‐;;)俺と悪魔щ(`Д´щ;)の百年戦争 ( No.6 )
- 日時: 2011/03/18 01:50
- 名前: 凡(ぼん) (ID: /005aVGb)
「あれ?イオリン、風邪でもひいたん?」
昼休み、ヤマトと一緒に弁当を食べていた時だった。俺はまた咳き込んでしまって必死に口元を押さえる。ゴホッ…ゴホッ…と濁った音が連鎖する。いい加減止まらないものだからヤマトに心配されてしまった。
「や、風邪じゃねえよ。たぶん」
空気が乾燥しているせいだ。…と、思うようにしている。朝の、黒煙が原因だとは考えたくなかった。でも、これまで授業中にも何回も咳き込むことが何度かあった。そのたびに悪い方に思考がいってしまう。もしあの黒煙が変なもので、人体に有害なものだったんじゃないか…とか。大げさなのかもしれないけれど、なんとなく気になるのだ。あのジャムビンのなかにあったものが。考えすぎか?
「そうなん?せやったらええけど…—-----—---」
ヤマトが語尾を止める。俺が不思議に思ってヤマトを見ると、きょとんとした表情をしていた。なんだ?
「…?なんだよ、何か言いたいことでもあるのか?」
「----------------……」
「ヤマト?」
「—---------…え?何か言うた?」
「いや、だからさ。何か俺に言いたいことでも?さっき、何か言おうとしたじゃん」
「ああ、それか。いやぁ—---……うん、何でもないわ。ゴメンゴメン、ちょいフリーズしてもうたわ。はっはっは」
「?……変な奴」
俺はじっとヤマトを見ながらジュースの紙パックに差したストローを噛み締めた。なんだろう、この既視感。どこかで、同じような反応を見たことがある。俺が咳した後、変な態度だった奴……。神楽坂か!
「…神楽坂も、ヤマトも、俺の咳がそんなに珍しいのかよ」
「え?かぐっちゃん?」
「ああ。今朝さ、俺が話しかけた時に咳き込んじゃって。そしたらヤマトみたいに何か言いたそうにしてたよ。結局、『別になんでもない』みたいな返答されちゃって、聞けなかったけど」
「かぐっちゃんも…か」
「2人そろって、変な奴だな—---と」
「ははは、気のせいちゃう?わしは、馬鹿は風邪ひかんっちゅう諺はまっかなウソやったんやなぁーとか考えとっただけ—----------って痛たたたたた!!ゴメン!イオリンごめんって」
「へえ?ようするに、俺は馬鹿ってことか?」
「なんや冗談言っただけやん、って痛い痛いーっ耳つねんのやめてやーーー」
「チッ…今日はこのへんで許してやるよ」
「ははは…イオリンごめんってば」
俺はヤマトの耳から手を離した。彼の、俺につねられていた耳が若干赤くなっている。ヤマトは苦笑いで自分の耳をさすった。
「ホンマ、イオリンには冗談が効かんで困るわぁ。だから友達少ないんとちゃうか?」
「あぁ?ケンカ売ってんのか?」
「売ってないて。ホントの話、イオリンってフレンドリーなんやけど、それにしては一緒にいる友達って言えばわしだけやろ?」
「…………」
「なんちゅーか、イオリンって現代っ子にしては珍しいタイプな子やからだと思うんや。軽そうに見えて、案外ストイックなとこあるし。自分の信念曲げんとことか。まわりの流行とかに興味ないとことか。せやから他の奴としては、ちょい付き合いにくい感じなんやないかなって。まあ、そこがイオリンの良いところだって、わしは思うとるけどな」
ヤマトがにっこりと笑いかける。俺は呆然としていた。自分でも気付けなかった俺自身のことを、ヤマトは綺麗にきっぱりと言いのけたことに。いや、俺は驚いていたのかもしれない。いつもヘラヘラと笑って誤魔化しているような奴…ヤマトが、そこまで俺を見ていたことに。俺はむしょーにふてくされた。というか、気恥しくなった。
「………じゃあさ、そんな俺と一緒に居るヤマトも、結構ヘンな奴じゃん。やっぱり」
俺はわざとそうやって言い返す。すると、ヤマトは平然と「そうやなぁ」と笑ってのけた。本当に変なやつだ。親友としても、変な奴だ。
「…まあいいよ。俺、今はヤマトだけで満足してるし。そこまで他に友達欲しいとか思ってないし」
「なんやそれ、愛の告白?嬉しいなぁ、イオリンからそういうこと言ってくれるやなんて。一途でかっこええ彼氏持てて、わしは幸せモンや」
「殴るぞ?」
「またまたぁー、そういうツンデレなとこもカ・ワ・イ・イ—--——-……ってゴメンゴメンもう言わんて!ほんまにグーで殴らんといて!!パーで!!殴るならせめてパーで!!」
俺は鳥肌のたった腕をさすりながら、しぶしぶと振り上げそうになる拳を抑えた。こんなこと繰り返したって俺が疲れるだけだしな。無視だ無視。ああ、まだ寒気がする。気持ち悪いこと言わないでくれ、頼むから。そういう冗談はまじで無理なんだ。
「おまえ、まじ、キモい。ありえない。冗談に聞こえないところがキモさ倍増なんだけど」
「ひっどいなあ。わしは本当のこと言っただけやん。よく考えてみぃよ、別にウソひとつないて」
「言い方が、だ。やめてくれ、俺をこの歳で罪人にしないでくれよ。本気で殴りたくなっから」
「ははは……わかったわかった。わしが悪かったわ。まあ、アレやな。話を前に戻すとして、わしはイオリンのこと心配しとるってことや」
「俺の友達環境が?」
「いや、そっちじゃなくて。身体のほう」
「ああ、咳のことか」
「そうそう。無理しぃなや?……もしイオリンの身になんかあっても、わしは、すぐにはどうにもしてやれんのやから」
「………?」
「まあ、そういうこっちゃ」
一瞬、彼の瞳が暗くなった気がした。それを隠すように、再び笑顔を見せたけど。俺はちゃんと見逃さなかった。俺のことを心配しているのは本当なのだろうが、それ以外にも何かを隠しているような気がする。でも、それを問い詰めることはできなかった。彼が俺を思う気持ちに嘘はないと信じたかったからかもしれない。
—------------キーンコーンカーンコーン—----------——
昼休みの終わるチャイムがする。なぜだか、時間が短く感じた。ヤマトが「もう終わりかいな」と溜め息を吐いた。俺もふう、と息を吐く。午後の授業がかったるいのもあるけど、今日は疲れた。なにかと疑問が積み重なる日だとつくづく思う。考え事がやまない。俺は窓を開けて外を見ると「あー、はやく帰りてえ」と呟いた。