ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: ε=(‐ω‐;;)俺と悪魔щ(`Д´щ;)の百年戦争 ( No.8 )
日時: 2011/03/20 01:16
名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)

家に帰って、重い足で二階に上がる。部屋に入ると、制服のままズドン、とベッドに倒れ込んだ。ああ、疲れた。冷たいシーツがほどよく気持ちいい。俺は枕に顔をうずめてそのまま眠りにつこうとした。別にいいだろ?今日はなんだか身体がだるいんだ。いや、気分が悪いって感じか。まあ、つまりは俺はどうしようもなくむしょーに眠いってことだ。ふう、と本日何度目かも知らない溜息を吐く。片手でネクタイを緩めた。寝返って天井を仰ぐ。白い壁。意識が遠のいていく。視界がぼやけてきた。俺は睡魔に抗うこともせず瞼を閉じる。対照的な黒の世界に、こんばんは。

—-----------キィイィィン—-------------

耳鳴りか。俺もよほど疲れているようだ。今日はもうこのまま眠ってしまおう。毛布を引き寄せて、軽く胴にかける。本格的に寝始めようとした、その時だった。

—-----------キィイィィン—……ドッ!!!!-------------

ハっと目を覚ます。ベッドが、鈍い音と共に揺れた。さっきからの妙に響く高音は、耳鳴りじゃなかったのか?俺は何が起こったのかもわからずに、ふと気配を感じて顔を横に動かす。

そこには、ギラリと黒光りした、刃—---------……

「は…?」

俺は寝ぼけているのか?ここは夢の中か?なんだ、これ。俺は一瞬、そのまま固まってしまった。刃といっても、普通の調理用ナイフなんてものじゃない。れっきとした戦闘用の、剣だった。昔、写真で見た日本刀が思い出される。こんなもの、なんで俺の部屋に…というか、何でベッドに突き刺さってんだ。
俺は状況がつかめないまま、慌てて飛び起きる。確かに、この目に映るその剣は、まるで俺を狙ったかのようにベッドに垂直に突き立てられている。もし俺がもうすこし横に顔を向けて寝ていたら…。考えたくないな。
あたりを見回した。なんでこんなものが急に降ってきたんだ。俺の部屋…というより、俺の家にはこんな危ねえものなんて置いてないはず。両親が持ち帰ってくる骨董品はあふれかえっているが、ヤバそうなものは親がちゃんと博物館とかに寄贈してるわけだし。
俺は恐る恐る、その剣の刃に触れてみる。本物、だよな。そっと指で撫でると、丁寧に手入れされたような滑らかな手触り、そして冷凍庫にでも入れられていたかのように冷たい感覚。ごくり、と唾を飲む。これはプラスチックとか、玩具の類のものではないと、素人の俺でもわかった。
いや、本当の問題はこんなものが何でここにあるのか、だ。誰かがこの部屋に入ったのだとしか思えない。でも、窓はきっちりと閉めてある。玄関は二重ロックしたし、中に誰か入っていた形跡などなかった。それに…この剣が刺さる直前まで気配がなかった。どういうことだ?

「チッ……今日はなんなんだよ、次から次へと…—!?---ゴホッゴホッ」

急に咳き込み始める。今回は、一段と、かなり苦しい。驚いた拍子によるものだろうが、やはり簡単には止まらない。両手で口元を抑え込んだ。咳の振動で体全体が震える。くそ、吐き気もしてきた。
ようやく、息を整えることが出来ておさまったが、まだ息が荒い。ふう、と深呼吸する。胸やけはするが、いったんは落ち着いた。しかし、安心したと同時に気付く違和感。両手の手のひらを見る。赤く広がる粘り気のある液体。これは—----血…?

そんな、ばかな。だって、でも…これは咳き込んでいた時に口を押さえていた両手についた血だ。呆然とする。これは、俺が吐いた、血なのか。

すると、突然のことだった。急に背後に禍々しい殺気。俺は気が動転しそうになるのをどうにかこらえて、バッと振り返る。俺の部屋の、ベッドとは対照位置にあるドア。そこに、奴はいた。
漆黒のローブに、フードを深くかぶった男。いかにも妖しい雰囲気。俺は後ずさりながらも、声を振り絞って叫んだ。

「あんた、誰だよ!強盗か?」

急に現れた男に対し、驚きを隠せない。さらに、よりにもよって俺が吐血している状況に。が、怖気づいては駄目だ。少しでも弱みを見せれば相手の思うがままになってしまう。俺はそいつを見据えながらも、心臓の高鳴りを感じていた。殺されるかもしれない。どうやってこの男が部屋に現れたのかもわからない、が、この剣は奴のものだろう。そうすれば全部納得がいく。
どれだけ時間がたったのだろう。俺も、その男も長いことお互いの様子をうかがっていた。緊張感が張り詰めるなか、男はそっと、その全身を包むローブから腕を出した。その瞬間、俺のベッドに刺さっていたはずの剣がひとりでに、勝手にガタガタと震え始める。
信じられない。その剣はベッドから抜け、空中を飛んでそいつの手に戻った。
俺は息をするのを忘れるくらい、この光景が信じられなかった。ありえないし。こんなこと、どうやっても説明つかないだろ。何も言えずに、俺はただ目を見開いていた。男は、俺のさまをからかうように、フードから唯一見えている口を歪ませ、嘲笑う。それが最後だった。

突風。しかも、俺の部屋の中で。反射で目を閉じてしまったが、その風はすぐに止んだ。しかし、再び目を開いた時にはそこには誰もいない。あの男の姿も、ベッドに突き刺さっていた黒剣も在りはしなかった。いっそのこと、夢か何かであると思いたい。いや、本当にこれは夢なんじゃないか。ちらり、とあの黒剣が刺さっていた場所を見る。
そこには、あきらかに傷んでほつれたシーツ。もういちど両手を見る。赤い赤い現実。溜息をついた。……夢じゃない。



この日から、俺の非日常は始まった。
この日から毎夜の攻防が始まり、
この日から、ヤマトと神楽坂は学校を休みはじめ、
この日から、俺は吐血を続けた。

それは一週間。


これが、すべての始まりだった。


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一週間後、〈序章〉に戻る。