ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: ε=(‐ω‐;;)俺と悪魔щ(`Д´щ;)の百年戦争 ( No.9 )
日時: 2011/03/21 23:38
名前: 凡(ぼん) (ID: CbmxSfx3)

彼は言う、価値のないものは何一つないのだと。我は問う、それは何故かと。彼は穏やかに笑った。

「わからないのかい。この世に存在を与えられたものは、きっと誰かに望まれて生まれてきた。それは誰かにとって、何よりも価値のあるものなんだよ。君には、それが本当にわからないのかい……—------------------無価値の王よ」

いつの日のことだったか。もう思い出したくもない、到底知り得ぬ不快な話だ。


2話.理由


「…———!!…、…!」

何か、夢を見ていた気がする。ベッドに倒れていた俺は身体を激しく揺さぶられて、意識を取り戻した。目覚めた途端によみがえる壮絶な痛み。俺は反射的に呻いて、それでもなお、瞼をゆっくりと開く。そうだ。俺はなにをしているんだ。早く、早く逃げねえと、あいつが…あいつが俺を!応戦中だったことを思い出し、身体をおもいきり退く。

「うっ………触るな!離れろ、この野郎…!」

「落ちついてくれ!我々は敵ではない、よく見て」

よく響く凛とした声。俺はフッと我に返る。そこには、見知った顔があった。いや、勘違いなのかもしれない。駄目だ、まだ頭が混乱している。だって、そんなわけないだろ…俺の目の前に、神楽坂がいるはず、ない。これは幻覚だ。

「違うよ、幻でもなんでもない。久しぶりだね、村雨君。君が思っている通りで合ってる。おれは神楽坂巴だよ」

色素の薄い青銅色の髪に、銀縁の眼鏡。相変わらずの無表情。それは、一週間ぶりに見た神楽坂の顔だった。たしかに、彼だ。しかし、彼は制服姿ではなく、白いスーツに白のシャツ。全てを白で表したさまだった。俺はどういう状況なのかもわからず、ただ呆然とするように、一応落ち着きを取り戻した。なにがどうなってる。俺が困惑した目を彼に向けると、彼はそっと呟く。

「驚かせてしまってすまない。けれど、今、ゆっくりと説明している暇はないんだ。ほら、見て」

彼は視線を俺からはずし、後ろを振り返った。俺も促されるまま、その視線の先に目を遣る。驚愕した。そこには、漆黒と純白。二つの光が相反するように割れている。俺の部屋は、俺の倒れていたベッドを残して、別の異次元が混ざったように広がっていた。ちらほらと壁が残っている部分もあるし、部屋に置いていた物もいくつかは転がっているが、これは俺の知っている世界ではない。それはあきらかだった。

「なんだよ、これ………」

言葉にできない。俺はその光をじっと見続ける。そして、気づいた。黒と白の境目に2人、誰かが戦っている。バチリ、バチリと火花が散る。対立した光の元凶。俺はただ傍観した。なぜだろう、何か、胸騒ぎがする。
神楽坂が、俺の身体を支ええいる腕を片方離し、上空に片手をあげる。その瞬間、一瞬だけ、光が吹き飛ばされた。そのおかげではっきりと、衝突する二つの姿が見えた。
一人は、漆黒の主。予想はできていた。俺を毎夜襲っていたあの男。紅い瞳と黒の髪を持つ、奴だ。そいつは俺に突き付けた長剣を振るい、闇の光のなかで踊るように舞い戦っていた。
もう一人は、純白の主。神楽坂と同じような白のスーツを身に纏い、戦うのには不向きであるような木製の、それでも美しく仕立て上げられた杖を構えている。間髪をいれず迫ってくる闇の光を、動じずに跳ね返す。そいつは—-------------—---------……


嘘だ。


なんで…


「…………ヤマト?」

透き通る茶色の、天然パーマのように毛先が跳ねている髪。そして、朝焼けの空を映したように光る瞳。
まちがいなど、あるはずもない。俺の友人を、見間違えることなんてありえない。けれど、俺はこの目が信じられなかった。なんで、此処にいる。神楽坂と同じように、一週間前のあの日から姿を消した。その彼が、今ここにいる。
俺はいてもたってもいられず、傍にいた神楽坂の肩を掴んで叫んだ。

「どうなってんだ…!あれは、ヤマトだろ?なあ、なんでお前とヤマトが此処にいんだよ!ってか、あいつはいったい誰なんだよ!教えろ!」

そのまま彼を張り倒す勢いで問う俺に、神楽坂は物怖じせずに淡々と答言った。

「君は信じないかもしれない。でもこれが真実でもあり、現実でもある。君には知らなくてもいいことだった。聞いたからには、ちゃんと受け入れてもらう。…覚悟は、ある?」

「覚悟だと…?俺はただ、知りたいだけだ。毎夜毎夜、あいつは俺のところに訪れた。俺を殺しに、だぞ。それも一週間だ。あいつがもはや人間だとは思っちゃいねえよ!でも、俺はわけもわからずがむしゃらに戦った。それは、生きたいからだ。死にたくないからだよ。生きたいから、相手がどんな奴かも知らねえで戦ってきた。覚悟がいるっつーなら、もうできてんだよ!それを俺に訊くなんざ、お前は相当のノロマだ、このノロマ野郎!!」

言いきった。心に溜まってた鬱憤も、全部吐いた。神楽坂には悪いかもしれないけれど、少しすっきりした気分だった。俺はこの一週間、誰にも毎夜の攻防戦のことを話したことはない。ヤマトがいたなら、相談したかもしれないが。だから、誰かにこの思いを伝えたかった。そういう欲求が、さっきの暴言で満たされたからかもしれない。
神楽坂は、俺の言葉を聞いて唖然としていたが、しばらくして「ふっ…」と笑い始めた。

「そうだね。おれたちが来るのは遅すぎた。本当にすまない。…ふふ、面と向かってそんな暴言を吐かれたのは久しぶりだよ。ああ、じつに……懐かしいね」

何を思い返しているのだろう。俺は、はじめて神楽坂の笑った顔を見た。あの人形のような、感情のない顔が微笑んでいる。少し、戸惑った。いや、これではぐらかされてはいけない。俺は再度彼に聞く。

「それで、どうなってるんだ。神楽坂、お前とヤマトはなんなんだ。あいつも、なんで俺を襲いにくるんだ」

「…君は、天国や地獄を信じるかな」

「は?…いきなりなんだよ、それ」

「おれも、どう説明すればいいか…これは難しい話なんだ。いや、むしろ概念を無視すれば、ある意味簡単な話だともいえる」

「じゃあ、簡単に言ってくれ。急に難しい話されても困る」

神楽坂はふう、と息をついて、俺を見据えた。真剣な目。彼は答えた。

「わかった。…おれたちは神に仕えている。人間は[天使]と呼ぶよ。……そして、あの漆黒の貴公子は地獄に君臨する邪悪なモノの権化。[悪魔]と、呼ばれているね。彼の狙いは君の魂。…いや、正確に言えば、[今は]君の魂になっている、かの魔法王ソロモンの魂。輪廻転生、魂は巡り、君という器にソロモンの魂は受け継がれた。あの悪魔はそのことに気づいてしまった。だから、君を襲いに来たんだ。……理解、できた?」


理解。正直に言おう、理解などできるはずもなかった。